君が僕の希望だから 6

294：通りすがりのピンチヒッター ページ48

青年は今にも体育座りをして縮こまってしまいそうだ。その様子はあまりにも同情を誘い、可哀想に思えてしまう。

Aは見ていられなくて、つい控えめに口を開いた。


「でも、私お芝居なんてしたことないですよ」
「っ今回のヒロイン役は台詞がとても少ないんです！後は歌って台本通りに動くだけなので！全然一日で覚えられます！！」
「えと、それでも初心者には難しいんじゃないかと」
「僕達他の演者がサポートします！！大丈夫、あなたの歌声ならヒロインにぴったりですから！！」


青年はたちまち笑顔になると、Aの両手を掴んで上下に思い切り振った。


「ああ、あなたに会えて良かった！！きっと神様が僕達に救いを与えてくださったんですね！！待っててください、団長に伝えて来ます！ヒロイン役、見つかりましたって！」


Aの言葉のどこをどう解釈したのか、青年は勢いよく立ち上がると早足で団長の元へ向かった。
たちまち上機嫌になった彼とは対照的に、取り返しのつかないことになったと悟って顔を青くしたのはAだ。


「……ねぇ。私、代役受け入れたことになってる…？」
「…みたいだな」


さすがのサトシも苦笑いを返すしかない。
Aはそれを見て益々顔色を悪くした。芝居なんて経験したことはない。たくさんの人々の前で誰かを演じるなんて…考えただけで緊張で押し潰されそうだ。


「ヒ、ヒカリ」
「こうなったらやるしかない…かもしれないわね」
「タケシっ、」
「劇団の人達を助けると思って、頑張れ」
「…サトシ」
「大丈夫！A本番に強いタイプだろ？」


さらに悪いことに、A以外の3人はAが代役を演じきれると思っているらしい。「違います、代役をするとは言ってません」と一緒に弁明してくれる者はいないようだ。


「そ、そんなあ…」
「あっ！Aさん！団長も是非お願いしたいって！今から衣装の丈を合わせるそうなので、今から明日の本番まで僕達と一緒に頑張りましょう！！」
「え、えっ！？」


今日で何度目か、Aはまた彼に腕を掴まれて奥の方へ引っ張られる。最後の頼みの綱、とばかりにサトシ達の方を振り返ると…彼らは苦笑しながらご丁寧にサムズアップをして送り出してくれた。


「そんなっ…！サトシ、ヒカリ、タケシー！！」


果たして、Aの運命やいかに。

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