君が僕の希望だから 6

293：通りすがりのピンチヒッター ページ47

「本当にすみません…。僕が事を急いてしまったばっかりに」


その事、サトシ達は簡易的なテーブルと椅子がある所へ案内され、事情を聞かせてもらうことになった。各自に飲み物が配られ、腰を下ろしたサトシ達の向かいに座ったのは…頭に大きな瘤を作った青年。しゅんとした表情で、心底申し訳なさそうに頭を下げた。
Aは悪気があったわけじゃないのだから、と青年に頭を上げさせ、改めて自分達を連れてきたわけを訪ねた。


「僕達はあちこちを移動しながらお芝居をしている劇団なんです。この街でも公演を行うことになっていて、丁度明日から」
「あっ！私達そのチケット持ってます！」
「そう、なんですか…」


ヒカリがそれを楽しみにやってきたと伝えると、青年は喜ぶどころかますます悲しそうに眉を下げた。


「そうやって楽しみにしてくださる方々がいるのはとても嬉しいんですけど…少し、トラブルが発生して」


青年は陰る瞳を伏せると、悲しみが色濃く現れた声で言った。


「今回ヒロイン役を務める女優の方が風邪で喉を痛めてしまって、声が出せなくなってしまったんです。僕達の劇団って人数が多いわけじゃなくて、裏方とか他の役とかで全員が全員自分の仕事があって代役がいなくて。今回のお話はヒロインの歌が要で…どうしても欠いてはならないものなんです！それで、僕達は代役をしてくれるような人を探していました」


そこまで話すと彼はガバッと体を起こし、Aを強く見つめた。


「今日中になんとか見つけなきゃいけないってときに、あなたの歌が聞こえて…もうこの人しかいないって思ったんです！！それで、つい焦って無理やり連れて来てしまいました…」


つまり、Aをヒロインの代役にするためにここまで連れて来た、と。

急な話にAが何も言えないでいると、青年は瞳にうるうると涙を溜めた。


「…僕、昔からここの劇団に所属してて…昔は雑用ばかりだったけど、だんだん役がもらえるようになって…今回の舞台が初めてなんです、大きな役を演じるの。だから、どうしても成功させたかったんです……」

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