十話 ページ11
何かを隠している。
土方はAを見てそう判断した。
高杉の名前を口にした瞬間、部屋の隅に居座るAの瞳が揺れるのを土方は見逃さなかった。
しかしそれはほんの一瞬のことで、彼女は土方の視線に気が付くとそれを真っ直ぐに受け止めた。
「……それで当日のことだが、一番混雑が予想されるのは、祭典の目玉でもある平賀源外によるカラクリ芸の時間帯だ」
土方は当日の首尾について説明しながら、頭の隅で思案する。
彼女が高杉と何かしらの関係がある(もしくはあった)のは確実だ。
他の攘夷浪士程度であれば泳がせて様子を窺うところだが、高杉となれば話は別。
問い詰めるべきか。
しかしそのことについて考えると、土方の頭に先程のAの表情がよぎる。
彼女は何かを隠している。
が、後ろめたいことではない、そう思わされる。
自分の視線を受け止めた彼女の姿勢がそれを物語っていた。
(………大切なものを護るために戦った。この国を、真選組を知りたい。恩返しがしたい)
土方はあの夜のAの言葉を思い出す。
そして、彼を真っ直ぐに射抜いた彼女の瞳を。
それが全て真実なら。
土方は煙草を持つ手を降ろすと、もう片方の手で湯呑を取り、茶をすすった。
***
「当日はお前も来い」
「え?」
会議が終わると、隊士達は蜘蛛の子を散らしたように立ち去っていく。
頃合いを見計らって片づけを始めたAは、最初に土方に声をかけられた。
湯呑を回収していた手が思わず止まる。
何か言われるかと構えてはいたが、まさかの内容だった。
土方はAを見下ろしながら、無愛想に言う。
「知りたいだろ。この国の頂点に立つ人間がどんな奴か」
「――――はい」
Aはその言葉に驚きつつも、大して迷うこともなく頷いた。
今のこの国は、将軍が実質お飾り状態だと聞く。
しかしそれでも、Aは「知りたい」と思った。
土方は表情を変えずに頷き、そのまま部屋の外に歩を進める。
Aは手に持った湯呑を置くと、彼を追うように立ち上がった。
「土方さん!」
背中に声をかければ、土方の足がぴたりと止まる。
振り返ってはくれないが、それでも十分だ。
「私のこと、信じて下さい」
様々な意味を込めてそう言うと、土方は少し間を置いて答えた。
「………俺は、お前の言葉なんて信用しちゃいねェ」
だが、と土方は続ける。
「お前の目だけは信じてる」
「!」
土方はほんの少しだけ振り返ると、そのまま部屋を立ち去った。
107人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梓 - ほんとにほんとに面白いです!!!更新頑張ってください!待ってます!(返信不要です汗 私が勝手に想いを伝えたかっただけなので…) (2020年7月1日 21時) (レス) id: b54ff5a336 (このIDを非表示/違反報告)
Lea - ほわいとさん» わ、わ、はじめまして!めちゃくちゃ更新に間が空いてすみません!当時見ていてくださったんですね、ちょっと恥ずかしいですが嬉しいです!ありがとうございます!リメイク版はまた展開をちょこちょこ変えるつもりなので、その違いも楽しんでいただけたらと思います! (2020年6月30日 20時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
ほわいと - はじめまして、当時この小説にハマっており数年後の今リメイク版を出されるとは思わず感動していますメッチャクチャ嬉しいです!!これからも応援しております (2020年6月20日 17時) (レス) id: 02cfa52dfe (このIDを非表示/違反報告)
Lea - 一寸先はダークさん» ありがとうございます!その辺りめっちゃ頑張って書いたので嬉しいです!!ザキの事情は当時かなり衝撃を受けました笑これから数話を高杉に割くので、彼のことも見てやってください〜 (2020年6月8日 11時) (レス) id: 1623825e3c (このIDを非表示/違反報告)
一寸先はダーク - Leaさん!とても面白いですね!!ザキが可愛かったです。元ヤンには見えないなぁw。銀さん達との再会とかも描写がとても綺麗で想像しやすかったです!更新無理せず頑張って下さい!応援してます! (2020年6月7日 13時) (レス) id: 771b180e53 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Lea | 作成日時:2020年6月3日 12時