三十八話 ページ40
残った涙を手の甲で拭い、Aは銀時から身体を離した。
そのぬくもりが名残惜しくもあったが、銀時はそっと腕を降ろす。
彼女の視線に沿って、ゆっくりと新八達の方に振り返った。
新八は赤くなった鼻をすすっており、神楽は満足げに腰に手を当てている。
銀時に注がれる神楽の得意げな視線は、感謝しろと言わんばかり。
しかし今回ばかりは、二人には頭が上がらないことを認めざるを得なかった。
「まァ……礼と言っちゃなんだが……」
頭をガシガシと掻きながら歯切れ悪く言う銀時に、神楽と新八の間に期待が高まる。
やがて、銀時はようやく意を決したように言った。
「先日、イチゴ牛乳を全て酢昆布に変えてきたことについては帳消しにしてやる」
「……………………………」
彼らは言葉を失った。
傍から見ていたAも言葉を失った。
しかし、当の本人は悪びれもせず「あ〜言っちゃった〜」などとぼやいている。
「何が帳消しにしてやる、だ！！この腐れ天パァァァァァァ！！！！！」
次の瞬間には、神楽が銀時の頭に掴みかかっていた。
髪の毛を引き抜かんばかりの勢いに、銀時からは悲鳴が上がる。
「あだだだだだ！ハゲる！！ハゲちゃう！！」
「恩知らず！！こんな毛根滅べばヨロシ！！！」
「大体それ僕には何のメリットもありませんから！！！」
新八の方は新八の方で、銀時の脚にげしげしと容赦のない蹴りを入れている。
上下から攻撃を食らう銀時は、隣に佇むAに助けを求めた。
「A！A！！へループ！！！」
「銀時にとって、私ってその程度の存在だったんだ………………」
「Aァァァァァァァァァァァァ！！！！」
Aの冷ややかな視線に、銀時は内側からもダメージを食らう。
身から出た錆とはまさにこの事だった。
銀時はバランスを崩して倒れ、神楽達はさらにそれを追撃する。
そんな風に戯れる三人を見て、Aは人知れず微笑んだ。
(…………銀時は、新しい場所を見つけたんだね)
こうやって冗談を言い合って喧嘩し、笑い合える仲間のいる場所。
それはかつてAのいた場所であり、桂や高杉のいた場所だった。
(私は………………)
切なげに目を伏せたのは一瞬で、Aはすぐに視線を上げた。
「銀時、今度は私が会いに行くから」
ボロボロになった銀時と、ボロボロにした神楽達の動きが止まる。
「だから、今日はまたね」
Aの表情に銀時は何かを感じたらしかったが、彼は何も聞かなかった。
「ああ、またな」
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作者名：Lea | 作成日時：2020年5月21日 17時
