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『やすらはで』(改定) ページ8

「おい、おい。」


今もしゃくりあげるAさんは、俺の腰元から全く離れない。


そして後ろでは立ち尽くす直嗣。


とにかく誤解を解かなければならない。


俺は振り向けず、そのまま直嗣に声をかけた。





「おい。誤解だからな。こいつが突然…」





言い切る前に直嗣はさっと俺の横を通り目の前のAさんの方へ向かった。


「A。大丈夫?何かあったのか?」


震える背中に大きいが華奢な手のひらをあてがうと、それをさすりはじめた。


それに落ち着きを取り戻したAさんはゆっくりと顔を上げて、直嗣の方を向いた。



「坂田さんが困っているから、離れよう。」



優しげな笑顔でそう言い聞かせると、こくりと頷いた彼女は虚ろな顔をして俺から離れた。


無駄に残る温もりは、少し俺の寂しさを募らせた。



また同じように緑色のソファへ案内し、なぜまた出ていったのかを尋ねると、『会いたくないから』らしい。


それを聞いてしまった直嗣は、少しの間悲しそうに笑ってからこう言った。



「それはごめんな。」


「あの、直嗣さん…」



拳で太ももにかかる着物を握り、Aさんは意を決してこう言った。


「直嗣さん…私、実家で少し休ませてくれませんか?」

「…なにゆえ?」



「…少し、疲れてしまって。薬も向こうの病院でしか取れないものが切れてしまったので。」

「………そうか。悲しいけど…それじゃあ、僕から家に連絡を入れておくよ。」

「お願いします。」

「それじゃ、実家暮らし、楽しんで。」
「ありがとう。直嗣さんも休憩を楽しんで。」

「休憩なんて…僕は君がいないのは寂しくて仕方ないよ。」

「…ありがとう。それじゃあまた二週間後に必ずここで会おう。

その間なにをしても問わないから。」

そう直嗣が言うと、Aさんはフラフラと立ち上がって外に出ていった。


取り残された俺は、力なく崩れ落ちる直嗣の肩を支えると中に入っていった。


「いいのか、あんなんで。」


Aさんが立ち去ったあと、背中を見送った俺は奥で落ち込む直嗣に問いかけた。


「…いいんです。」


「一緒にい過ぎました。」


「…そうか。」

『みかきもり』(改定)→←『ゆらのとを』



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おちゃちゃ - 切なくていい話ですね。もう泣いちゃいました。 (2018年6月11日 23時) (レス) id: 687e689f52 (このIDを非表示/違反報告)
ふゆき(プロフ) - 空乙女さん» そう言っていただいて嬉しい限りです!まだまだ書き手としては新人なのですが、その言葉を貰うと自信が出ます(( 。ハイキューのやつも書いてたんでたまーに見てくださいね笑 (2018年3月5日 3時) (レス) id: c3febc506b (このIDを非表示/違反報告)
空乙女 - 切なくて悲しくてとても綺麗なお話ありがとうございました。表現法がとても綺麗で読み惚れました。ハイキューは私も好きです。これからも頑張ってください (2018年3月4日 22時) (レス) id: da52fc6dbb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:hikari | 作成日時:2018年1月10日 10時

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