物憂笑 ページ14
夢を見た。
私があの人と離れた時の夢。
青い車に乗って今日は楽しかったねと語り合っていたのは夜の十一時だった気がする。
辺りは外灯以外何も明かりがなく、真っ暗な道。
だから明るいはずなんてないのに。
後ろから白い光が、背中を向けても感じ取れる程の明るい光が私と直嗣さんの方目掛けて駆け込んでくる。
私が驚いて後ろを振り向くと、大きなトラックがありえないスピードで走ってきていた。
私は心臓が今にも飛び出しそうな感覚を覚えた。
直嗣さんは全てを察した。そして私の頭から身体を自身の身を呈して覆った。
「絶対に頭をあげるな。大丈夫だから。」
いつもの通り優しい声で、焦る私を抑えるように、ゆっくりと私の背中を叩いていた。
ただいつもと違ったのは、彼の心も強く波打っていたこと。
背中越しに伝わる鼓動も、次にくる衝撃のあとは何一つ。
優しく私の背中を叩くその手も、力強く包み込むその腕の力も、
______何一つ、残ることなく消えていった。
私は叫んだ。
もう決して帰ってくることのない直嗣さんのその名前を。
神は意地が悪い。こんなにも私を心から愛してくれていたあの人が即死し、
結婚前に他の男の家にフラッと上がり込むような最低女を残して。
涙が止まらなかった。
車は吹き飛ばされたのか、二メートル先の道路脇のガードレールに突っ込んでいた。
情けなくエアバッグを膨らませたまま、車体の片側は無残に潰れていた。
救急車が来たのはそれから二十分程してからだった。
その後記憶はない。確か、私も死にたいと思っていた気がする。
耳に違和感を感じたのはその次の日の問診だった。
何一つ音がない。目の前にいる本村先生という男の人が入院先のベッドの脇で、べらべらと口を動かしているのだけが見えた。
「あれ、聞こえない。」
ひとつ呟いた。けど、私の声も鼓膜を震わせない。原因はわかっていた。
私とあの人を離した昨日の事故。ああどうしよう。
もう誰の声も聞こえない。でもいいか。もう私が声を聞きたいと思う人がいない。
(…坂田さん…)
そのはずなのに、私の頭の中には白い髪の毛でゆらゆらと歩くあの人の顔。
彼なら私の心を慰めてくれようか。
(…嗚呼、私は最低だ。)
28人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おちゃちゃ - 切なくていい話ですね。もう泣いちゃいました。 (2018年6月11日 23時) (レス) id: 687e689f52 (このIDを非表示/違反報告)
ふゆき(プロフ) - 空乙女さん» そう言っていただいて嬉しい限りです!まだまだ書き手としては新人なのですが、その言葉を貰うと自信が出ます(( 。ハイキューのやつも書いてたんでたまーに見てくださいね笑 (2018年3月5日 3時) (レス) id: c3febc506b (このIDを非表示/違反報告)
空乙女 - 切なくて悲しくてとても綺麗なお話ありがとうございました。表現法がとても綺麗で読み惚れました。ハイキューは私も好きです。これからも頑張ってください (2018年3月4日 22時) (レス) id: da52fc6dbb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:hikari | 作成日時:2018年1月10日 10時