薄桜鬼永訣録～新選組小話～《土方歳三》 (ページ45)

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四三、旗本伊庭八郎ページ45

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「千葛にとって
　頭領の妻というのは
　あまりにも責任が大きかったんだろう」
「何不自由なく暮らせてるのが
　女の幸せじゃねぇんだな」

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数日後の事

「千鶴ちゃ…やのうて…雪村はん！」
「あ！Aさん！」

昼まで許されたAは
あれからすっかり
新選組屯所に訪れるようになっていた

「今日はええ天気やなぁ」
「そうですね。
　晴れ晴れとしていてとても素敵な日です」
「なぁ…ずっと思てたんやけど…
　何でそんな堅苦しいん、？
　うちには友達みたいにしてくれて
　ええんやけど…」
「すみません。つい癖で…」
「うちには気ぃ使わんと仲良くして！」

笑顔で話しかけるAに
千鶴は戸惑ったように笑った

「大丈夫大丈夫！おなご同士仲良うしてな？」
「は…じゃなくて、うん！」

二人が微笑みあっているときである

「おや、そちらが例のお嬢さん…？」

ハッとしてAが声のする方を向くと
そこにはとても綺麗な顔の男が立っていた

「えっと…」
「これは失礼。僕は伊庭八郎と申します」

にっこりと微笑む男に対し
Aは声も出ない

「お前がそんなに怖じ気づくなんて珍しいな」

と、その後ろから土方が現れる

「土方はん！」

ほんの少し顔を赤らめるAに
伊庭はなるほど、
と内心思いながら改めて彼女に向き直った

「いつもなら噛みつく勢いで言ってるくせに」
「だって…それは！」
「漬け物のAさん、ですね？」

また言ったのか
Aはそう言わんばかりの顔を土方に向ける

「話を聞いたときは
　どんなお転婆さんかと思いましたが
　想像とは遥かに違い
　とても綺麗で可愛らしい
　お嬢さんじゃないですか。トシさん」
「…そうだな」

視線を合わせることなく返した土方であるが
Aにとってはそれでも嬉かった
例え報われないものだとしても
彼女には土方しか見えていない

「この人も新選組やの？」
「いや、こいつは旗本だ」
「旗本！？」

目を見開くAに
土方はああそうだ、と答える

「うち、よう分からへんのやけど…
　旗本て徳川のお偉いさんやんな？
　そんな人と知り合いて…新選組て…」
「こいつはな、旗本であると同時に
　江戸じゃ四本指に入る道場の一つ、
　心形刀流伊庭道場の跡取り息子だ。
　俺たちのいた道場とは
　そこそこ交流があってな」

そうやったんや、
とAは静かに土方から視線を移した

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