薄桜鬼永訣録～新選組小話～《土方歳三》 (ページ40)

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三八、お雪ページ40

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「うちが東の人ぉ！？」

その言葉にAはムッと怒った

「真っ直ぐに怒ってる理由を伝えてくるだろ。
　加えて異常に気が強い…
　まるで、姉貴に言われてるみてぇだ」
「こんな弟なら言いたくもなるわ」

つーんと拗ねるAを
土方はただ見ているだけである
と、土方は徐に立ち上がると
Aの方を向いた

「もうじき日が暮れちまう
　女の一人歩きは危ねぇし
　送ってやるからとっとと帰るぞ」

そういうとさっさと歩き始めてしまう

「ちょっ…土方はん待って！」

そんな土方に
Aは追い付こうと小走りで追いかけた

帰り道、二人に会話などなかった

＿＿やがて家路についてしまう

どこか寂しさを覚えていたAに対して
土方は何を思っているだろうか

そんな事を考えていたとき
突然土方が立ち止まった

「ここからは一人で帰れ
　俺がいくと怒られるのはあんただろう？」

そういうと土方は彼女の背を押した
彼女の家はもう見える範囲にある

「じゃあな」
「へぇ…」

土方は背を向けると歩きだした

「あ…！」

と、土方から何かが落ちる
Aが慌てて拾いにいくと
どうやら根付けのようだった

「土方はん…！」

彼の名を呼ぶがすでに土方は遠くにいる

「……今度でええかな…」

そういうと反対方向にある家に足を向け
帰っていった

＿＿Aを送ったあと
土方は屯所に帰るために歩き進めていた

辺りはすっかり日が沈んでいる

と、彼の前から一人の女が
こちらに向かって歩いてきていた
その姿は白く長い髪に
白を基調とした着物姿である

「(妙な女だな)」

そうは思ったものの
土方は何事もなく通りすぎようとした
と、咄嗟に違和感を感じ
通りすぎて間も無く後ろを見やる

だがそこで土方は自身の目を疑った

「っ！？」

そこには先程の白い女はいないのだ

「どういうことだ…？」

不気味に思った土方は刀に手をかける

＿＿だがその日は再び
その女が土方の前に現れることはなかった

＿＿＿

先程土方がすれ違ったのは千枝だった

彼女は土方がいたすぐそばの家の屋根にいた

千枝は酷く冷えきった瞳で彼を見下ろしている

月夜に照らされた彼女の姿は妙に美しく
それがかえって
禍々しさを持ち合わせているようだった

風が吹くたびに
靡く白い髪の毛が顔に触れるなか
千枝はただじっと土方を見下ろしている

だが土方は自身に気がつくことなく
そのまま屯所に戻っていった

「そんなに殺気立ってどうしたの」

＿＿＿＿

＿