薄桜鬼永訣録～新選組小話～《土方歳三》 (ページ34)

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三二、池田屋事件ページ34

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同じ頃、お玉が池田屋のそばにいた
普段の髪結い屋の姿ではなく
黒い着物に黒い頭巾と
目立たないようななりである

彼女は池田屋が視界に入る程度の路地から
静かにそこを見ていた

池田屋のなかに次々と浪士が入っていく

「……まぁ繁盛したお店ですこと」

そういうと彼女の足は鴨川へと向かった

＿＿空になった屯所の広間には
山南と千鶴が落ち着かぬ様子で
彼らの帰りを待っていた

「総長」

と、監察方の山崎が
昼間の薬売りのいでたちではなく
黒装束に身を包んで現れる

「“本命は池田屋”との報せが入りました」
「池田屋！！？」

＿＿＿池田屋側の近藤らは
三条小橋近くの池田屋を遠くから監視していた
先程から何度か
二階の障子が開き外を窺う男が見える

「こっちが当たりか」
「会津藩や所司代の姿は？」
「…まだ見えません」
「そうか」

＿＿＿＿＿

＿

「私としたことが…見誤りました…。
　すぐに土方副長のいる
　四国屋へ伝えにいきます」
「頼みます。事は一刻を争う。それと雪村君」
「はい」
「君も同行してください」

その言葉に千鶴は勿論、山崎も驚いた

「お言葉ですが
　伝令になら俺一人で事足ります」
「山崎君には会津藩や所司代にも
　通達してもらわねばなりませんし
　伝令に向かう途中
　足止めされるかもしれません。
　確実に伝えるためには一人より二人。
　念には念を入れるべきです」

＿＿＿＿
＿

時間だけが過ぎていき
近藤たちには焦りが見えはじめていた

「近藤さん、どうします？
　みすみす逃しちゃったら無様ですよ？」

催促するように沖田が近藤に話しかける

「やむを得ん。いくぞ…！！！」

＿＿＿＿＿
＿＿

「騒がしいな」
「どうやら始まったようですね」

同じ頃、池田屋の別室にいた
風間と天霧の二人は
外から聞こえてくる怒号に静かに話していた

「千枝は連れてこなくて正解だったな」
「えぇ。巻き込まれたら
　千葛殿に顔向けもできないところでした」
「その女はどうでもいい」

と、そこで
自分達のいる部屋の襖が開く音が聞こえてくる
二人は静かに振り返った

＿＿＿
＿

翌朝のことだった
Aは店の前を
いつもと変わらず掃除している

「大変や！！！」

するとどこからともなく声が聞こえてきた

「池田屋がえらいこっちゃ！！！」
「どないしたん」
「新選組と長州が斬り合いになって
　血の海や！！！」

＿＿＿

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