一、平穏な日々 ページ3
・_文久二年 五月・京
「女将さん!おかわり!!」
「あー俺も!!!」
女将と呼ばれた女は
「へぇへ」と笑顔で返事をしながら
膳を運んでいく
「たんとお食べやす」
「おおきに!」
山盛りのご飯を前に皆が笑顔になっていた
___煮売り屋『長崎』
京では人気の煮付け屋だった
「ただいま〜」
と、店の入り口から一人の娘が帰ってくる
「お帰りA」
「おぉ!Aちゃん!」
「あんたがくると華やかになるねぇ」
皆がにこにこと話しかけるのは
そこの一人娘のAだった
「おおきに」
にっこりと笑顔で返すと
Aも店の手伝いをしようと準備を始める
「てて様ただいま」
のれんをめくり顔を覗かせると
この家の主が魚をさばく手をとめて振り返った
「お帰りA」
その言葉を聞くと満足そうに
Aは表へと出てくる
「せやけど女将さん
こないに働く娘はんはええやぁ」
「ほんまや。元気が一番や」
あちこちから聞こえてくる声に
女将は誇らしげに答えた
「うちの自慢の娘やさかい。
あんたらにはやらしまへん」
「ちくしょー!!」
「はっは、お前
Aちゃんにあいに通ってるもんな」
「他を当たっとくれやす」
笑いながら返すAをみて
女将もお客もつられて笑いだす
繁盛する店で毎日のように飛び交う
活気のある声
皆が笑いあう空間
Aはこのときが一番楽しかった
彼女が十五の話だった
__文久三年 二月
この年、江戸から浪士組が上洛
後の“新選組”である
彼らはあまり京の人々から歓迎はされなかった
「おっかないのが来たわ」
「どないなるんやろな、ここは」
「戦でもするんやろか」
「嫌やわぁ」
人々は彼らの存在に怯え
“壬生の狼”と呼んでいた
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作者ホームページ:http 作成日時:2020年4月16日 16時