【短編集】甘く苦い【ワールドトリガー】 (ページ5)

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「なかったことになんてさせない。」

『何？不倫でもさせる気？

交際相手いるんでしょ。女もののプレゼント聞いてきたり、結婚のプラン相談してきたりしてさ。』

私が尋ねると、出水は怪訝そうにする。そして、少し考えた後、何かをひらめいたのか口を開いた。

「毎度急に呼び出したのは謝る。でも、俺には恋人いないから。

毎回相談してたことだけど、槍バカ、米屋が恋人がいるんだよ。それで、アイツがAと会う口実作るために、これ相談して来いって連絡くれたっていうか…。」

こんな恥ずかしいこというつもりなかったってのに、と言いながら出水は赤い顔を片手で覆った。

何それ。期待しちゃうじゃん。私のことが好きで会いたいから米屋に協力してもらったって聞こえるよ？

出水は私を起き上がらせて、真剣な眼差しで私を見つめる。

「格好悪いけどさ、俺、Aのことが好きだ。Aには、もう相手がいるのかもしれないけど、これは俺のけじめだから。

大学卒業して、会おうとしなきゃ会えなくなって。どうにかして会うために相談するって言ってた。」

『私のこと、好き？出水が？』

今までずっと好きでいちゃいけない、そう思っていたから嬉しいことのはずなのに心が追い付かない。

「連絡したら会ってくれるし、俺が一番Aに近いと思ってた。でも、Aに避けられて、さっき男といるの見て、頭に血が上った。」

止まらない出水の言葉に、胸が熱くなる。

『私も、ずっと出水のこと好きだったよ。今でもそれは変わらない。

出水が結婚するから、私も前に進まなきゃって男の人とご飯に行っても、ずっと出水と比べちゃう。

私、これからも出水のこと好きでいていいの？』

泣きながら出水に問いかけると、力いっぱい抱きしめられる。

「なんだ、安心した。これからも俺だけを好きでいてよ。

改めて、俺と付き合ってください。」

見上げた出水の顔は、緊張しているのか強張っていて笑えた。

「なに笑ってんだよ。」

そんな不貞腐れた顔すらも好きで。

『こちらこそ、宜しくお願いします。』

私の言葉に見たことのない甘い顔をする出水。

こうして、無事お付き合いできた私たち。米屋に報告すると、待ちくたびれたぜ、なんて言われた。

何度も逃した終電、流した涙。お互い好きだったのに遠回りしてしまったけれど、今ではいい思い出だ。

「ほら、映画間に合わなくらるぞー。」

わかってる！と言って出水を追いかけ手を重ねた。