【短編集】甘く苦い【ワールドトリガー】 (ページ4)

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それから私は、何かと理由をつけて、出水と会うことを拒んだ。

出水以外に目を向けよう、そう思って、声をかけてくれた会社の人とご飯にも行った。

三人目の人と食事を終えて、家の前まで送ってもらい、ロビーに向かうその時だった。

出「へぇ。忙しいってそういうことなんだな。」

腕を掴まれた。出水の声は、私の知っているものより数段と低くて、なんだか怖かった。

出「明日会社休みだろ？ちょっと話そうぜ。何階？」

私は引っ張られるがまま、エレベーターに乗って、503と告げる。

目のやり場に困って、ひたすら階数の表示を見上げていた。気まずいからか、いつもよりスピードが遅い気がした。

到着の音が鳴ると、鍵、とだけ言われて、つい渡してしまった。私の家の鍵を開ける姿がなんだか現実味がない。

ガチャリとドアを開け、そのままリビングまで引っ張られる。慌てて靴を脱いで、鍵をかけた。

『出水、なんかあった？』

こんな出水の姿は初めてで、投げかけた質問。けれど、出水はその質問には答えず、私をソファに押し倒した。

『え、ちょっと。どうしたの？』

私の思考回路はショート寸前だ。

出「A、付き合ってる相手いたのかよ。」

さっきの人のことだろうか。

『出水には関係ないでしょ。友達なんだから。』

自分で口にして自分で傷を抉る。折角距離を置いて前に進めた気がしていたのに。

出水は、はっと乾いた笑みを零して、友達ね、と呟いたのが聞こえた瞬間、ドアップの出水の顔と、唇に触れる柔らかい感触。

キス、された…？

出「これでも、友達って言えんのかよ？」

なんでこんなことするの？そう思って、自然と涙が流れた。

私のその姿を見て、我にかえったのだろう。

出「ごめんな。そんなに嫌だったんだな。」

切なそうな顔をする出水。全く意味がわからない。

『…なんで？都合よく呼び出せる私がいなくなるのが気に入らないの？

結婚するのに、そんな勘違いさせるようなことしないでよ！』

溢れ出した涙は、止まることを知らない。

出水は、泣いている私の両頬に手を添えて、見つめてきた。

出「ちょっと待てよ。俺は、Aのこと都合いい相手だなんて思ったことないんだけど。それに、結婚するって、誰がだよ。」

『突然呼び出してくるし。濁さなくていいよ。結婚するんでしょ、出水。さっきのは無かったことにするからさ。』