scene256 ページ6
「見たって、なにをだよ」
おれは冷静なふりをしていたけど、声に動揺が表れていたかもしれない。
『Aが死ぬとこ……。そのときおれ、Aと一緒にいたんだ』
「は……?」
『Aってさ、電車の事故で亡くなったんだ。駅のホームで足を滑らせて……なんだけど、おれには、Aが自分から飛び込んで行ったように見えたんだ』
なにを言ってるんだ……こいつ。
おれは汗で滑る携帯を握り直す。
『おれが拾った学生証って、そのとき落ちたものを勝手に持って帰っちゃったんだけど、よく見たら変なんだよ』
「変ってなにが……」
『おれたち三年なのにさ、Aが持ってた学生証は二年のなんだよ。去年の学生証って、普通持ち歩かないだろ? だから……』
次第に声が弱々しくなる。
『……あれは……Aじゃなかったんじゃないかって思って……』
たぶん、そう思いたいっていう気持ちだったんだろう。
それは紛れもない真実なんだけど、そいつには知る術がない。
「……そうかもな」
なんて声をかけてやったらいいかわからなかった。
『なあ、さっきからお前、Aを探してるみたいな口振りだっただろ。前に電話したときも不思議に思ったんだけどさ、友達なのに、Aが死んだことだって知らなかったし。もしかしてお前――』
「やめろ!」
おれの叫び声が屋上に響く。
『……ごめん……変なこと言ったな』
それから、二人とも黙ってしまった。
Aが生きていると知ったら、こいつは喜ぶだろうか。たぶん、もう気づいているんだと思う。でも、おれは話してはいけない気がしていた。お前の世界と違うってことも、Aが生きてるってことも。
Aと話くらいさせてやりたい。でも、だめなんだ、たぶん。なんでかはわからないけど、そのとき、おれもそいつもそのことを感じていたと思う。
本当は、おれとこいつだって、関わるべきじゃない。
長く引き延ばされた時間の後、沈黙を破ったのは向こうだった。
『……A、なにか悩んでたのかもな。おれが気付いていれば、あいつが思いつめることもなかったんじゃないかって、今でも後悔してる。……だからさ、お前は絶対後悔しないようにな』
優しい声だった。おれは胸が苦しくなる。
知らなかったから、気付けなかったから、おれと同じ思いをこいつも抱いている。
「ああ……そうするよ」
『おう! じゃあ、がんばれよ!』
さっぱりとした明るい声に背中を押される。
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ペナ紅 - やっぱ電話の相手、半田だったんだ…! (2021年7月5日 16時) (レス) id: 173b2b90f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのわたし(プロフ) - 完結おめでとうございます。高い文章力ですごく引き込まれました。私事ではありますがわたしは基山ヒロトが好きで吉良ヒロトがどうしても好きになれずこの小説を取っ掛りとして読ませていただきました。あなたの作品で彼のことを好きになれました。 (2020年12月8日 18時) (レス) id: 0a912f5e29 (このIDを非表示/違反報告)
りと - 完結おめでとうございます!丁寧かつ読みやすく想像しやすい文章でサクサク楽しく拝見できました!個人的には甘くない終わりにくそぅ!と思いつつでも現実だったらそうだよなぁとしみじみ受け止めました。笑 また是非に文字を書き続けてください!応援しております! (2020年11月22日 15時) (レス) id: 4c41bf9741 (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - とっても楽しく読めました!大好きな作品です!完結おめでとうございました! (2020年3月17日 10時) (レス) id: 40379c818e (このIDを非表示/違反報告)
鬼跡 - 完結おめでとうございます⊂((・x・))⊃この作品本当に大好きでした!!!!大好きです!ヾ(@⌒ー⌒@)ノ (2019年12月18日 18時) (レス) id: 8e87660fcc (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2019年8月22日 20時