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練習を終えシャワーを浴びてシャワールームを出ると、目の前をAが走って通りすぎていった。


「今のAだよな。帰って来てたのか」


灰崎が髪を拭きながら出てきた。


何日も帰ってこなかったのに、予想外の再会に一瞬幻覚を見たのかと思った。


「お、おい!」


気付かず通り過ぎて行ったAを思わず呼び止める。


振り返ったAはなんだかものすごく険しい顔をしていた。でもおれや灰崎の姿を見ると、とたんに安堵したような表情になって、走って戻ってきた。


「お前今までどこに……」


言いかけたおれの横を通り過ぎ、Aはいきなり灰崎の服を掴むと、引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。


「おい、ちょっ、引っぱんな。なんだよ」


Aは困惑する灰崎を見上げ、なにかを訴えようとしているみたいだ。

目には涙が溜まっていた。潤んだ瞳でじっと見つめられ、灰崎はしどろもどろになっている。


「ずるいな灰崎くん。代わってよ」と吹雪さんが灰崎をちゃかす。

「黙ってちゃわかんねえよ」


灰崎が言うとAは灰崎の胸倉を掴んで引っ張り、顔を自分の方に無理やり近付けさせた。


「なっ、なにす……」


突然Aの顔が眼前に迫ってきて顔を真っ赤にしてうろたえる灰崎をよそに、Aは灰崎の耳元に唇を寄せる。


おれは口をあんぐりと開けてその様子を見ていた。


「は……? あー……、わかったよ。しょうがねえな……」


灰崎が「やれやれ」と髪を掻きむしると、Aはようやく手を離した。

耳元でAが何か言ったのだろうか。

でもなんでわざわざ耳元で。


「女子のシャワールームにアレがでたから、退治してくれだとよ」


Aはぶんぶんと首を縦に振った。


「アレってまさか……ご」


言いかけたおれをAがどつく。


「ぼくアレって見たことないんだよね。ぼくも行っていい?」


吹雪さんはなんでちょっと嬉しそうなんだよ。





シャワールームに出現した黒光りするアレは、吹雪さんが外に逃がしてくれた。

初めてアレを前にして、「すごい、カブトムシみたい」とか訳の分からないことを言っていた。


なにもすごくないし、カブトムシに謝れ。


たぶん吹雪さんはカブトムシも見たことないんだと思う。

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- 福岡、京都、沖縄...陽花戸中、漫遊寺中、大海原中ですね。立向居や木暮、綱海がいるか確かめにでも行ったのでしょうか...。でも、夢主ちゃんの世界にヒロトは存在していない、と聞いたとき、ヒロト本人はどう思うのでしょうか...続きがすごく気になります! (2019年2月17日 17時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
- 無印時代からアレス時代に来るとき、雷門中から飛び降りたことで夢主ちゃんがこの時代に来れたとか...?色々想像できて楽しいです!頑張ってください! (2019年2月15日 13時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
- 初コメ失礼します!!もしかして夢主ちゃんは無印時代から来た子ですか!?アツヤ見て泣いたのも、ヒロトを見てビックリしたのもつじつまが合いますし...。(アツヤが生きてて嬉し涙、ヒロトがタツヤと全然似てなくて驚き)いつも応援しています!! (2019年2月12日 3時) (レス) id: cb7b132aff (このIDを非表示/違反報告)
彼方(プロフ) - すごく場面場面が入ってきてとっても読みやすいです!続き楽しみにしています♪ (2019年2月11日 22時) (レス) id: 35021d0064 (このIDを非表示/違反報告)
はずにゃん☆ - こんな感じの小説待ってましたー♪投稿頑張て下さい。 楽しみにしています! (2019年2月9日 14時) (レス) id: f86bddf786 (このIDを非表示/違反報告)

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作成日時:2019年2月8日 17時

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