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無事 ページ25

無事に僕達は幸せを掴むことが出来た。なんて言い方は適していないだろう。僕達の出会いはとても運命的ではあったが過程が滅茶苦茶過ぎたのだから。もしこれが何処かの物好きが書いた短編小説ですと宣えば、即刻黒き歴史の中へ放り込まれ着火されることだろう。それ程までに、僕達は訳が分からない道を選んでしまった。

 僕の膝上でゴロゴロと喉を鳴らしながら眠っている男を見つめるたびに、僕はそんな事を思う。きっと、Aからすれば獣道で、僕からすれば修羅の道なのやもしれぬ。不思議な事に分からないという感情は薄れていた。ただ、表現方法に困り果てていただけである。

「A」
「なんだ芥川」
「…龍之介、と呼ぶ気は無いか?」

 僕達は平気で獣のように戯れる事は出来た。それはきっと頭の中を全て捨てて空になった状態で戯れているからであって、言葉を介して戯れる事に関しては非常に下手だった。それは昨夜知った事だ。だから、膝上で顔を真っ赤にしながら僕を見つめるAの瞳の中に閉じ込められている僕も顔は真っ赤なのだろう。酷く、熱い。

 人はこれを、初々しいというのだろう。僕は理解した。手足が冷え切っているが、それが心地よく思える。

 ままよと僕達は今まで吼えて、駆けて来た。僕は迷える走狗で、Aはやるべき事を理解している酔虎。今までAは孤独に己の道を綴って来たことだろう。だが、今は僕が居る。共に物語を紡ぐのだ。僕は未だに迷っているが、その中で何を見出し何を成せるかを葛藤の中で見出せていけたら楽しいのだろうなと、柄にも無く思ってしまった。

 ピンポン、とチャイムが鳴った。Aはビャッと飛び起きるなり身なりを整え、玄関の方へと行ってしまう。それが実に名残惜しくて、僕もふらりふらりとそれに続いた。はて、僕は何か頼んでいただろうか。それとも、銀だろうか?

早上好(おはよう)、A…と、真っ黒くん」
「…袁傪、帰ってくれ」
「あ、ちょっと待とうか!真っ黒くん無言でドアを閉めようとしないで!お願い中に入れて下さい後生ですー!」

 もう二度と会う事は無いであろうと思っていた珍客。無表情とよく言われる僕はこの日、初めて誰がどう見ても不機嫌と分かる様な顔をした。

 虎視眈々とAに狙いを定めた男を、僕は早く追い出したかった。

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左目から鯖味噌(プロフ) - 司さん» 芥川にときめいて頂き有難う御座います。とても嬉しいです。これからもときめかせることが出来ると良いなあ…と思いつつ更新しております。最後はどうなるのか私自身余り分かっていない部分がありますが、見守って頂ければと思います。御感想有難う御座いました。 (2018年1月5日 14時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 翻弄されつつある芥川の健気さがいとおしくてときめいております!このままもどかしい関係性の二人もたまりませんが、相思相愛になった時のいじらしさを想像するだけで胸が焦がれそうです笑。素敵な作品をありがとうございます。陰ながら応援しております。 (2018年1月1日 16時) (レス) id: 7ab5912443 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - クロりんごさん» そう言っていただけると嬉しいです。私自身、この芥川結構色々長く心の中で喋るな、程度には思っていたのですが矢張りそうでしたか。もう少し改行出来るように頑張りますね。今年もどうか温かい目で見守って頂けると幸いです。御感想有難う御座います。 (2018年1月1日 8時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
クロりんご(プロフ) - とっても面白くてこの作品大好きです!ですが、改行が少ないので読みにくい気もします。あくまでこれは私の意見ですので、なんとも言えませんが……これからも更新頑張ってください!応援してます! (2018年1月1日 7時) (レス) id: 8489cd9c31 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 鞍さん» 芥川が分からないことだらけの男になっていないか若干の不安を覚えつつ更新をしていますがそう言って頂けると大変励みになります。有難う御座います。鞍さんの応援にしっかりと答えられる様な作品にしたいと思います。御感想有難う御座いました。 (2017年12月28日 12時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2017年12月8日 21時

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