【文スト】親友が僕の肩を抱かなくなった日【芥川】

闇聴 ページ3

Aはギャンブルに紳士な男だったが、それ以上に下手くそな男であった。前に僕と二人で賭けとまではいかぬだろうが、負けた方が一日分の食事を奢るという制約でトランプを行った事がある。異能力はAの意志に関係無く発動されるもので、当然Aが勝つであろうと僕は財布の中身を気にしつつ勝負に挑んだ。

　結果は僕の勝ち。Aは口をすぼめて財布の中を覗きながら不貞腐れていた。僕は余り大食らいではないのだからそこまで気にする必要は全くないのだというのに、何故だか不貞腐れていた。最後の最後までは順調、確かにAが勝っていたのだが、最後に僕が逆転した。Aは恐ろしい位ポーカーフェイスを貫いていたかと思えば、あるカードに触れた時にたりと笑ったり、くしゃりと顰めたりとそれはもう僕を翻弄した。

　僕はこの時Aの異能力の弱点を知った。Aの人柄が全ての弱点なのだ。任務を行っている時、Aは決して加減をしない。容赦なく飛び掛かるし、隙あらばいつでも首を掻き切ると言わんばかりの顔をする。だが、ひとたび任務から離れれば人あたりの良い笑みを浮かべながら素質があると言いながら筋の良い部下をそれはもう可愛がった。
　つまり、この男はお人よしで詰めが甘い奴。これはもう不治の病と言っても過言ではない。

　ジョーカーを机の上へ放ったAに、僕は何故いつも負けるのだと先程結論が出たばかりだというのに尋ねた。

「知るかそんなこと。俺が知りたいくらいだね」

　頬杖を付くその様子に、どうやら自分では自覚がないようだ。それに呆れるべきか幸いと思うべきか、友人として僕は悩んだ。弱点については黙っておこう、こればかりはきっと言ったところで無駄だ。

　ギャンブルが下手なのは結構なのだが、この男は時々熱が入り過ぎてどうしようもない事が多々あった。時々任務で骨折し、通院状態にも関わらず病院で支払うためにとまとめておいた金に手を付ける事など数え切れない。三割は僕が阻止するのだが、あとの七割は既に使われてしまっている。それで負けて帰って来るのだから本当にどうしようもない。一体どこの誰とやっているのか知りもしないのだが、負けて帰ってくるたびにAは決まってこう言った。

「ギャンブルは、絶対使っちゃいけない金に手を付けてからが本当の勝負だ」

　阿呆め。あの時ばかりは肩を抱かずに背負ってから思いきり投げてやった。あれのお陰で筋肉がついた気がしなくもない。

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