ブタ ページ1
僕の親友である菊池Aが死んだ。その場に居合わせた者曰く、運悪く目を付けられていた輩に背後から頭を銃弾で貫かれたらしい。
Aは、見ていて気持ちの良い男であったがそれは僕にとってはであったらしく、慕う人間は割と居たがそれ以上に目の敵にしている人間の方が多かった。
「それだけ俺が良くも悪くも目立ってるって事だろ？良いじゃねえか、その分囮の仕事が捗るってもんだ」
そう言ってからからと笑っていたのを覚えている。
Aもまた異能力者であった。その能力は自分だけとてつもない幸運に愛されるという単純な能力。Aはこれを異能力とは思いたくなかったのか、いつも名前は無いと唇を尖らせていた。
その唇は今、固く閉ざされている。何か言ってみろ、いつもの下らぬ冗談でも、時々笑って流してしまう様な甘い言葉を。あの声はもう二度と聞けないのだ、そう実感してしまうたびに僕は棺を前に頽れてしまいそうだった。
喋るたびに熱を帯びるのか、かっかと赤くなる肌は青白く血なんて何処にも無いようだった。冬になれば僕の手を温めてくれた手は、固く結ばれていた。愛する人の死体はとびきり美しいものだと中原さんが言っていたのを思い出したが、僕はとてもそうには思えなかった。僕の肩を抱いて大口を開けて笑うAが、僕は何よりも勝る美しさを持っていると、そう思っていたのだから。
「A、そろそろ春になるぞ。春になったら、僕と花見をするのだろう。そんな所で眠っても面白くはないだろう。早く、早く起き上がって僕にお前を温める権利をくれ」
今日は三月六日。僕の誕生日は三月一日。僕は誕生日にAと添い遂げられることを望んだ。誕生日にしちゃあ重すぎるお願いだなと笑われたのは、つい五日前のこと。全く重くは無かったではないか。
同時に、何故お前なのだと分かりきった答えを前にして盾突きたくなった。お前は生きるべき人間だろう。何故そんな風にあっさりと息をするのを止めたのか。生き汚くなれと言ったのは貴様だろう。愛していた、愛していたのだ、本当に。
その後僕はAが九蓮宝燈を出した事実を知った。それならば、仕方が無いのかもしれない。幸運の女神がAに代償を求めた。それだけの事なのだろう。
本当に冥府があるのであれば、僕は今悪食や兵器や走狗等よりもオルフェウスになりたい。オルフェウスになって、Aを連れ出すべく冥府を下りたい。
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袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» いつか書きたいとは思っていましたが遥か彼方の理想郷にしかなりませんでした。様々な可能性を秘めている彼はとても魅力的です。一ヶ月弱ではありましたが本当に有難う御座いました。時々月さんのお言葉を思い出し、いつまでも励んでいきたいと思います。 (2019年3月29日 18時) (
レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» こんなにも心の籠った感想が頂けてとても嬉しいです、有難う御座います！いかんせん短編しか書けないたちなので急展開ばっかりではありましたがそう言って貰えて何よりです。私は彼の生き様が何よりも好きなので敢えてそうしているのですがハッピーエンド良いですよね。 (2019年3月29日 18時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
月(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 感想が長くなって申し訳ないのですが、本当に素晴らしかったですとだけお伝えします。こんな素晴らしい作品を生み出してくださってありがとうございました！これからも影ながら応援させていただきます。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
月(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 完結おめでとうございます。最後までとても引き込まれる文章で、軽く感動しました。私はハッピーエンドなお話が好きなので、そういうのを書いたり読んだりしているのですが、作者さんのあとがきを読んで、芥川は確かにそんな生き様だなと納得させられました。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 月さん» 有難う御座います！確かにそんなイメージがありますね。もっと増えれば良いのにと思いつつ自給自足の日々です。菊池くんは何となくパッと見である程度の方に良い人って思えるようにしたくて悪戦苦闘していますがそう言って頂けて安心しました。引き続きお楽しみください (2019年3月3日 20時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：袋小路窮鼠 | 作成日時：2019年3月2日 13時
