異能力 ページ26
Aは走った。走って、走って、走って、止まる。そこは初めて国木田達と出会った場所だった。闇に包まれたあの時と違って今は太陽が出ている。それなのに此処はとても暗かった。Aが犯した罪のどす黒さとは、これくらいなのだろうか。そう錯覚してしまう程に。
たった数日でこんなにも仲良くなってしまった。まだ話した事の無い社員だって居る。共に食事をした事なんて無い。お互いの過去の話を打ち明けたりもしていない。下らない話で笑った回数なんて片手で数え切れてしまう程。それなのに、こんなにもAが報われないのは矢張り自業自得なのだとしか言いようが無い。
ひたり。
影がAの腰を撫でた。それに対しAは身じろぎひとつしなかった。恐ろしいからではない。動くべきではないと判断したからだ。この影は、Aが動いたその瞬間に頭から食うつもりなのだと、Aは分かっている。
「ジャック・ザ・リッパーが聞いて飽きれる」
ごほ、ごほ。影の中から一人の青年が姿を現した。まさに自分は影の中に潜む人間なのであると口外する様な、黒ずくめの青年。
「やあ芥川。もしかして私の代わりにジャック・ザ・リッパーになってくれるのかい？」
「けど、無理だよ」
「君に自業自得って言葉が無ければ罪悪感という言葉も入っていないだろうからね」
ぞろり。
別の陰がAの首を捕らえる。勿論、それに対してぴくりとも動かない。自然と恐怖は無かった。
「ならば、是非も無し」
澱んだ瞳がAを瞳と交差する。決して逸らしはしない。逸らせば食われる。この男がまだ人間で居られるのであれば、まだ好機がやってくる可能性がある。
「貴様が犯した罪を辿る様に、僕が始末するだけだ」
芥川の青白い手がAを指差す。この男の血はきっと青いのだろう。こんな時にそんな下らない言葉が生まれた。
さて、このままでは本当に始末されかねない。本当に可哀想な男だ。芥川龍之介という男は。いっそ可愛らしくも見えて来る。
入社試験の時の感覚が蘇る。馬の様に早足に駆けていく心臓の音、ぐらぐらと揺れる視界。はくはくと零れる意味のない吐息。ここで終わるわけにはいかない。こんな場所で終わって誰が得をするというのだ。
「異能力」
芥川が告げる。それはまるで処刑の合図の様だった。それよりも早く、Aの口が動いた。
「異能力、切裂きジャックの寝室！」
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左目から鯖味噌(プロフ) - 書けるように頑張りますね。感想ありがとうございました。 (2017年12月27日 11時) (
レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 21さん» 有難う御座います。言葉が気持ち悪くないか何度も自問自答していたのですがそう言って頂けて嬉しいです。更にはご本人の方にも興味を持って頂きとても喜んでおります。お金を払いたい位だなんて恐れ多い言葉以外の何ものでもありません。楽しみにして頂けるような作品が (2017年12月27日 11時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 七葉さん» コメントありがとうございます。大抵今後の展開を考えない行き当たりばったりの不安定更新ではありますが七葉さんの温かいお言葉のお陰でまだまだ頑張れそうです。これからもっともっと楽しめるお話にしていく事が出来たら幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年12月6日 21時) (レス) id: 7e4ff29a97 (このIDを非表示/違反報告)
七葉 - とても続きが気になります!これからどうなっていくかが楽しみですね!更新頑張ってください!応援してます! (2017年12月6日 20時) (レス) id: 88ee75b376 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：左目から鯖味噌 | 作成日時：2017年11月3日 14時
