アサガオの花言葉 24 ページ24
「ずいぶん弾けるようになったでござるな」
万斉のその言葉にギュッと撥を握る。
昼時。
万斉は仕事をしながら私の三味線の指導をしてくれていた。
手元の書類から目を離しこちらを見て伝えてくれる。
「いつも少しだけ晋助が教えてくれるの」
「…ほう」
興味深そうな目を色を向けられるが、それ以上何も答えること無かったので押し黙る。
荒く抱かれた日から晋助は私に触れることがなくなった。
キスも、手に触れることさえも。
夜は帰ってくることはなく、気づいたら一人で朝を迎えいる。
だから晋助が隣で寝ているのかさえ分からない。
もしかしたら、帰ってきていないのかもしれないけど。
本当にそうだったとしたら、と思うと怖くて万斉や来島また子には聞けなかった。
「それにしても、Aが弾く音は繊細でござるな」
「え…?」
「今日は特に…壊れそうでござる」
そっと呟かれた意味を理解するのに数秒かかった。
壊れ、そう。
心情が音に出るというのだろうか。
そこまで分かってしまう万斉に吃驚してしまう。
「音は人の心を癒すと同時に、支え、補い、満たすものでござる。不思議な力に頼ってみるのも一つの手でござるな」
今度は独り言のように呟かれた万斉のセリフ。
慰めにも聞こえるその言葉達は、私の乾ききった心に浸透していった。
「音に、頼る…」
試しに弦を弾いてみる。
たった1音だが、その音の波は私の心まで届き溶けていく。
「万斉、やっぱり私、音楽が好きだわ。救われた気がするもの」
「拙者も何度も救われた。そういうものでござる」
最初音楽に触れたのは、晋助の三味線を勝手に触った時だった。
突然帰ってきた晋助にそのまま教えて貰って。
そして初めてあの日、私はキスというものをした。
初めて血の繋がりのない男に抱きしめられて、初めて抱かれた時幸せを感じて、初めて人に想いを寄せた。
全ての初めては、全部…。
「…晋助のために三味線を弾くわ」
「どうしてでござるか」
「あの人が帰ってきた時に少しでも安らいで欲しいから。私の元に帰って来て欲しいから」
「ふっ、それはいいでござるな」
三味線の音は、不思議と心を穏やかにさせ落ち着かせる。
その音は道標となり、その道は私の元へ続いて欲しい。
私に「ただいま」を、言って欲しいのだ。
「音色が晋助に似てきたでござるな」
「…?何か言った?」
「いや、なんでもないでござるよ」
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お茶(プロフ) - チノちゃんさん» ひゃぁぁありがとうございますうう泣 (2020年7月20日 1時) (レス) id: 7f31983ff2 (このIDを非表示/違反報告)
チノちゃん(プロフ) - 凄く良かったよぉぉぉぉお (2020年7月20日 1時) (レス) id: 5e7e485832 (このIDを非表示/違反報告)
お茶(プロフ) - きょこさん» わぁぁありがとうございました泣泣 本当に嬉しいです、、、!! (2020年6月28日 20時) (レス) id: 7f31983ff2 (このIDを非表示/違反報告)
きょこ - 高杉〜!!!かっこよすぎる!おもしろかったです。もっともっと読みたい…キュンキュンしまくりでした。ありがとう^_^ (2020年6月28日 17時) (レス) id: 5129d38d73 (このIDを非表示/違反報告)
お茶(プロフ) - みきゃんさん» 了解しました!この作品の番外編をいずれ作ろうと思いますm(_ _)m (2020年6月19日 18時) (レス) id: 7f31983ff2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お茶 | 作成日時:2020年3月6日 13時