箱庭の海４６ ページ46
癇癪を起こすような男だと分かったAの母親は、後日離婚届を渡したそうだ。
もちろん、義父さんは納得がいかないと怒り狂う。
想定内の展開を読んだ俺とAは、離婚届を渡す日に、田村先生に同行するように頼んだ。
田村先生は、生徒に虐待の証拠が見られた場合、警察に通報すると脅す。
実は、田村はAの相談を受けたその日から、Aの鞄に盗聴器を仕込ませていたという。
録音された音声が証拠として実際にあり、義父さんの行き場はなくなっていた。
つまり、離婚せざるを得ない状況に置かれたのだった。
「本当に愛すべき子を失うところでした。ありがとうございました」
Aの母親からは、そう頭を下げられた。
誰だって弱い部分に付け込まれたら狂う。
仕方が無いことではあるが、大切なものを見失うのは違う。
俺はそれを伝えたかっただけだ。
☕
「何だか、あっさりだった」
弁当を食べながら、Aはそう言った。
昼休み、屋上近くの階段で昨日の事を話していた。
Aの感覚では、随分とすんなり終わってしまったらしい。
「嫌な思いしてねぇ？」
「なんにもしてない。後悔も何も。もし銀時くんがいなかったら」
そこで、Aは言葉を止める。
いや、詰まらせる。
俺が気になり視線をそちらへ向けると、Aは手を震わせながら目に涙を溜めていた。
「お、おい…」
「銀時くんがいなかったら、私…。ママの事も信じられなくなってたかもしれない…！！だか、ら…取り戻せてよかったって…」
感情を表に出せるようになってから、Aはよく泣くようになった。
俺の前で泣いてくれるようになった。
こうして、不安に思っていたことを口に出してくれるようになった。
「俺なーんもしてない。Aが勇気出してくれたから取り戻せた事なんだぜ」
ヘラヘラ笑いながら、Aの弁当の中のたこさんウィンナーを横から取る。
「あ！」と大きな声を出し、既に俺の口に放り込まれたたこさんウィンナーを悲しげに見つめたA。
本当に涙流してっから、ガチで悲しんでいるように見えちまうな。
「ウメェ！何これ、母ちゃんが作ってくれたん！？」
「そうだよ」
「さすがAのママさんだな。美人だし料理上手かよ」
「でしょ、ママの料理は昔から誰よりも上手かったんだから」
そう。
Aはそーやって笑ってりゃいいんだよ。
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作者名：お茶
| 作成日時：2019年4月10日 1時
