箱庭の海39 ページ39
「…大丈夫か」
手を差し伸べ、声をかける。
ゆっくり顔を上げたAは、目を見開いた。
「坂田、くん…」
「悪ぃ、ちょっと痛てぇかもしんねえけど」
俺はなるべく優しく、彼女の膝付近に腕を突っ込んだ。
そして背中にも同じように腕を添え、そのまま持上げる。
「なななんと!!!あれはお姫様だっこだァァ!!!」
だからわざわざ叫ぶな放送委員!!!
グッと持ち上げたAを見れば顔を真っ赤にしていて。
俺まで移りそうになる。
「さ、坂田くん!おろして!あなたアンカーなんでしょ!?」
「足捻ったんだろ、保健室行こうぜ」
歩き出せば周りから黄色い歓声が上がる。
バトンを持って走っていた谷口に、口パクでごめんと口ずさんだ。
美波先輩は…。
まぁいい、そんな奴どうでもいい。
俺はそのまま保健室へと直行し、彼女をソファに座らせた。
先生に足の状態を説明する。
「捻挫っすかね」
「そうねぇ。坂田くん運んでくれてありがとうね」
「へーい。俺もここにいていいっすか」
呑気にそんなことを言えば、Aは慌てた様子で首を横に振った。
「だ、ダメ!まだ出る種目あるでしょ!」
「俺さっきのでラスト」
嘘だけど。
真顔でそう答えれば、大きなため息をついて額に手をやるA。
「嘘でしょ…失格になっちゃったよ坂田くん」
「それ桜田さんもっす」
さらにため息をついたA。
その様子を見ていた保健室の先生は、苦笑した。
「この様子なら大丈夫そうね。ごめんなさい、私本部にお茶と氷届けなくちゃ行けないからちょっと空けるわよ」
そう言いながらAの怪我の手当てをささっと済ませ、行ってしまった。
二人っきりなった空間。
呼吸しずらい、異様な空気。
あの日、Aに俺が美波先輩とキスしているところを見られ逃げられた日。
その日から、話していなかった。
俺なりに頑張って詰めた距離が、一瞬にして引き離されたあの瞬間。
喉に詰まった言葉が出なかったあの瞬間を思い出すだけで、嫌になる。
「…何で、助けてくれたの」
「は?」
両膝のドレスをぎゅっと握り俯くA。
弱々しい声に、思わず聞き返す。
「だって坂田くんは…ほら、嘉永先輩と」
「あのよ」
食い気味に、そう口に出していた。
ビクッと驚いたAに近づき、Aのすぐ後ろの背もたれに手を付きさらに距離を詰める。
「話、聞いて欲しいんだけど」
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作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時