箱庭の海３３ ページ33
クラス全員が帰宅した。
俺はポツンと教室の隅で、中庭を眺める。
三階のこの教室は、窓から中庭しか見ることが出来ねぇ。
なーんでグラウンドじゃないのかねー。
…けど、この教室じゃなけりゃ、男どもに囲われたAを見つけ、助けることは出来なかった。
あの日、この窓から考えなしに飛び出した。
そんな俺を見て、Aは笑った。
ヒーローになりたいのか、マントがついていないから空は飛べない、と。
ヒーローになれなくていいから、お前の隣にいたいんですけど。
「お、ちゃんと残ってるじゃないか」
聞き慣れてしまった声に、ゆっくり振り向く。
計算された笑顔を俺に向けたのは、美波先輩。
教室のドアから歩いてきて、俺の前に立った。
膝に手を付き中腰になり、俺と顔を近づける。
動揺せずただ死んだ目で見つめていたら、彼女はフッと笑った。
「銀時くん、ここでヤラない？」
「…は？」
何言ってんだこの女。
すると、ゆっくり自身の手を胸元に持っていき、第二ボタンを外した。
チラッと見えた肌色。
「カーテンに隠れればいけそうじゃない？」
「先輩、マジどうしたんすか最近。趣味変わりました？」
「銀時くんが遊んでくれなくなったから、ちょっと寂しかっただけ」
第三ボタンを外し、結いていた髪を解く。
慣れてるその仕草や行動に、嫌悪感を覚えた。
それに
…くせぇ。
強い香水の匂いがもろに届き、むせそうになる。
「ねぇ、全然乗り気じゃないじゃん。…もしかして久しぶりだから戸惑ってる？」
「ハッ、まさか」
「じゃあ、銀時くんからキスしてよ」
今ここで拒んだら、どうなる。
逆上して、こいつはAを傷つける可能性がある。
あいつを守れるなら、信頼を失ってもいい。
その方が、マシだ。
俺は美波先輩の腰に腕を回し、そっと顔を近づける。
満足そうに目を閉じた美波先輩。
この人、こんなに厚化粧だったか。
そんなくだらないことを頭の片隅に、俺は美波先輩の唇に自分の唇を重ねた。
…A？
美波先輩の後ろ。
教室のドア。
こちらを唖然と見る、Aの姿がそこにあった。
バッと勢いよく美波先輩から離れ、立ち上がる。
「A！！！！」
名前を呼ぶと、呆然としていたAがビックリし、逃げ出す。
追いかけようとすると、美波先輩が俺の手を握った。
意味深に笑う美波先輩。
…どうすりゃいいんだ。
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作者名：お茶
| 作成日時：2019年4月10日 1時
