箱庭の海４ ページ4
桜田 A。
あいつの名前を出せば、クラスの連中はすぐ答えてくれた。
俺と同級生、つまり高校二年であり、特待生としてこの高校に入学した。
容姿端麗、成績優秀な完璧さは、一目置かれているらしい。
あいつは、数学教師の田村 光輝(ﾀﾑﾗ ｺｳｷ)に懐いているらしく、しょっちゅう数学準備室に通っている。
友達は少なく、その数学教師以外誰も受け入れないという。
「その桜田ってやつ、何組か分かる？」
さらにクラスメイトの女子に聞けば、ケラケラと笑いだした。
「本当に何も知らないんだねー坂田くん」
そんなに有名だったのか、桜田 A。
クラスは俺のクラスA組の四つ隣、E組だ。
今まであいつの事を知らなかった俺の方が珍しいと、クラスメイトに言われた。
E組、か。
ちょっと行ってみるか。
昼休み、俺は桜田 Aの事がどうしても気になり、E組に足を運んだ。
相手も俺のことを知らない様子だったのが気に食わなかった、という理由で。
俺もこの学年では有名な方なのに。
俺はE組の顔を知っている女子に声をかけ、桜田の名前を出した。
すると、ここにはいないと即答される。
「何で桜田さん？それより私とお昼食べない？坂田くんまだ食べてないでしょ」
「わりぃ。また今度な」
なんだよいねぇのかよ。
俺は飽きずに次の日も次の日も、E組に通った。
けど、あいつが俺の前に現れることがなかった。
そして。
豪雨の日。
今日は朝から強い雨が降っていて、俺は授業中降り続ける雨を眺めていた。
「お前、何企んでやがんだ」
既に問題を解いた隣の席の土方くんが、俺にこっそり話しかける。
「何って、何？」
「E組に通ってるらしいじゃねぇか。それに桜田さんの名前を出して。女どもが騒いでやがる」
「それが土方くんに何の問題があるんだよ」
「お前の隣の席だからって仲がいいと勘違いされてる。お前のことを知りたがってる女子が俺に群がるんだ、何とかしろ」
「そんなこと言われてもね〜」
気になるんだ、あの女が。
男に詰め寄られてる時、最初は抵抗していた声を出していたのに、途中で諦めた声を出したあの女が。
海底のような瞳の色をした、あの女が。
なんで俺、こんなに…。
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作者名：お茶
| 作成日時：2019年4月10日 1時
