箱庭の海13 ページ13
その日の帰りのHR。
「じゃ、これで終わろうかな。係から連絡はある?」
休んだ桂の代理の田村がクラスに呼びかける。
いつものごとく誰も手を挙げない。
一瞬、田村と目が合ったがすぐにそらされた。
今日の昼休みのあれは何だったんだ。
あの異様な圧迫感は。
「ないみたいだね」
「先生」
俺はバッと勢いよく手を挙げた。
「はい、坂田くんは何係かな?」
席を立ち、少し沈黙を作る。
そして、意を決して言葉を吐き出した。
「桜田Aと仲良くなるためには、どうすればいいですか」
クラス中が一気にざわめき出した。
これは、宣戦布告だ。
沖田も、お前も、下手な言い回ししやがってめんどくせぇんだよ。
要は俺を桜田に近づけさせたくねぇんだろ。
んなの知らねぇ、知ったこっちゃねぇ。
俺がしたいようにする。
強く睨み質問をすると、田村は笑った。
「根気強く話しかけたらいいんじゃないかな、彼女は難しい生徒だからね。大変だと思うけど頑張って。さて、これでHRを終わりにしよう。さようなら」
落ち着いた口調で、そう田村は言った。
はっ、まずはお友達にでもなれっていうのか。
放課後。
俺はE組のHRが終わるまで廊下で待っていた。
E組の坂本先生はHRが終わるのが遅いと有名だから、桜田を待つことが出来た。
しかし、待っても待っても桜田が出てくる事がなく。
最後、坂本先生が教室を出てった後にドアから室内を覗くと、あいつは帰る支度もせず外を眺めていた。
また、イヤホンをして。
長いまつ毛を少しだけ伏せ、遠くを見つめている。
「なぁ!」
大きめの声でそう言えば、さすがに聞こえたようで桜田はビクッと肩を揺らした。
片耳だけイヤホンを外し、こちらを見る。
ゆっくりとした動作に、胸が高鳴る。
俺の顔を見ると、苦笑いした。
…鬱陶しそうな顔しなくなったのな。
「坂田くん、だよね」
「えぇ!?は!?ま、待った待った!!!」
嘘だろ、空耳じゃねぇよな!!
勢いよく桜田が座る席に駆け寄る。
「な、なに」
「いやだってよ!!初めて俺の名前呼んでくれたからよ!!てか俺の名前知ってたのな!!」
やばい、なんだこれ。
なんでこんな、嬉しいんだ。
一人で喜んでいると、桜田が吹き出す。
あ、笑った。
「何それ。名前呼んだだけだよ?」
聞いたことない優しい声音は、俺の心臓を掻き乱した。
…今、俺顔赤くねぇかな。
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作者名:お茶 | 作成日時:2019年4月10日 1時