【青の祓魔師】名も知れぬ蝙蝠【男主】 (ページ10)

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7.道ページ10

襟を引かれた方へ顔を向けると、何やら苦い顔をしたメフィストと目が合った。
「なんだ」
「…いえ」
口籠り、視線を泳がせる様子は奴にしては随分と珍しくあったが、何故かいつまでもそうして何かを言い悩んでいる。暫くして、早くしろと言う代わりに眉間に皺を寄せて睨んでみれば、思い切り目線を反らされた。
そうして口を開いた奴から吐き出された言葉は、失礼極まり無い物であった。
「……すみません。私としたことが、アナタがそんな趣味をお持ちだと知らず…」
「何を言っているんだ貴様は」
失礼の塊をぶつけて来た悪魔に呆れながらもしやと思い振り返れば、同じような面持ちで此方を見る神父が居た。
「……雪男に手は出させんぞ」
「誰が出すか」
全く。揃って何を勘違いしているんだか。
溜め息を吐いて否定をすれば、それでも信じられ無いと言うように冷ややかな目を向けられる。
それを無視して改めてユキオを見れば、向こうも首を傾げて此方を見上げた。
何もかもを呑み込むような青…確かに何処かで。
「青……炎…まさか…ッ!?」
呟きながら、ハッとして記憶の海の中からある者の存在を引き出す。
感覚を意識して集中させて子供から感じる魔力の奥の、そのまた奥深くの深層を探れば、その者のそれとよく似た物を感じた。燃えるように激しい、この世の全て焼き付くしてしまうのではと思う程の魔力。
子供の中に眠るのは、その小さな片鱗であった。
「ユキオ」
「な、なに?」
試しに言葉を掛けてみれば青の瞳は大きく揺れたが、眠るそれは反応しない。
ああ、そうか。これならば、そうそう覚醒の危険は無いだろう。先程から何も言わずに此方を見る悪魔と神父は、それを理解している筈だ。
「道を誤るなよ」
「…道?」
「そう、道だ」
この幼子の進む道は、恐らく険しい物になる。
兄が居るのだと言っていた。
血が繋がっているのならば、その兄も同様の道を歩む事になるだろう。彼らはどんな壁や誘惑に阻まれようとも、己でその道を作っていかなければならない。

その身に眠る力は、運命なのだから。

「己の進むべき道は、お前自身が見つけ出さなければならない。例えそれがどんな障害を伴う物でも、どんなに醜く這いつくばってでも良い。…己の道を進め、ユキオ」
よく分からないと戸惑う小さな頭を、壊してしまわぬよう気を付けて軽く撫でれば、柔らかな髪が指の間を抜けた。

無知で未熟で臆病な精神(こころ)。
小さく脆く弱い身体(いれもの)。
その中で燃える力と意志。

どうか、壊れてしまわぬ事を。

ｰｰｰｰ決して、俺のように堕ちてはくれるなよ。