君の温度 【K.N】 ページ18
「Aさん、先方に送った資料！数値がおかしいって連絡きたけど！」
先輩の言葉に頭が一瞬真っ白になる。
「申し訳ありません、すぐ確認します！」
パソコンを開いて確認すると、ゼロが一つ足りない箇所があって、そこから計算式がおかしなことになってる。
単純なミス。
社会人になって三カ月。
自分の仕事の出来なさ加減にへこむ。
学生時代のアルバイトでは頼りにされていた方だと思うし、そこそこやっていけると思っていた自分が甘かった。
先輩にチクチク嫌味を言われながら、先方に謝罪の電話を入れて、資料を訂正していると、ピロン、と社内メールが届いた。
『今日、メシ行こ』
その一行だけで、心臓がどくん、と跳ねる。
二宮さん、だ。
誰かに見られないように、すぐにメールの画面を閉じる。
・
二宮さんは、社内でも有名な優秀なプログラマーさんで。
納期が短い仕事でも、急にトラブルが起きても、「めんどくさー」とか「しんどー」とか言いながら絶対にどうにかしてくれるって、営業の先輩が教えてくれた。
事実、配属されてすぐに先輩が取った仕事はかなり無茶な要求のオンパレードだったのに、二宮さんはばっちり間に合わせてくれた。
その二宮さんに、社内のエレベーターの中で突然。
「ねえ、彼氏いる？」
って聞かれた。
「い、いません」
「ふーん」
ふ、ふーん？
銀のフレームの眼鏡の奥で、薄茶色の瞳が私を見た。
「じゃあさ、付き合おっか」
と、言われたのが一週間前の話。
「えっと、あの。付き合うって言うのは、どういう意味でしょうか…？」
文字通り、天パっていた私を見て、二宮さんは、くくって笑った。
からかわれてる？
「どういうって、そういう意味だよ」
「どうしてですか？」
単純に本当に疑問だったから、そう聞いただけなのに、さっきよりもっとおかしそうに二宮さんは笑った。
「嫌なら取り消すわ」
「え！」
「え？」
「……取り消さないでください」
咄嗟にそう言って、自分でもちょっとびっくりする。
「じゃ、そーいうことで」
ぽん、って頭に手を置かれて、二宮さんはエレベーターから降りていった。
残された私は、何がなんだかわからないまま上の階まで運ばれた。
その日、私はコピーの枚数を間違えて大量の廃棄資料を作ってしまったのだけど、そのミスは多少二宮さんのせいでもあると思う。
それから数日後、初めて食事に行って、今日が二度目。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1213人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年9月22日 8時
