リアル・ヒーローショー

29　庇う ページ31

笑はニコの言い分が分からなかった。

笑が足を止めると、ニコはすぐに振り返って笑の腕を掴んだ。

「あいつのところには行かせない」

「私がどうしようが私の勝手でしょ。
離してよ」

「その必要はないわ、本当に必要ないの」

笑とニコが睨み合っていると、笑の足元から幼い少女の声がした。

「あんた、いつからそこにいたの」

ニコが少女に問う。
少女は妖しい笑みを浮かべた。

「関係ない、本当に関係ないの。
私が興味あるのは笑だけなの」

「私？
……ねぇ君、名前は？」

突然名前を出されたことに戸惑いつつも笑は尋ねる。

少女は短く、しかしはっきりと自分の名前を告げた。

「A」

直後、Aは笑に向かってゲームウイルスを放出しようと片手を笑に突き出す。
それを悟ったニコは乱暴に笑を引っ張り、自分の背に隠れるように突き飛ばした。
ウイルスが放出されニコに直撃する。
ニコが蹲る。
その体にオレンジのノイズが走った。

「残念だわ、本当に残念。
だけど、いいわ」

Aはそう言って消えた。

「……ニコ！」

笑は起き上がってニコに駆け寄る。
ニコからは呻き声を上がるだけでまともな返事が返ってこなかった。

どうするべきか分からずに笑が混乱している中、一人の男性が駆け寄ってきた。

「大丈夫か！？」

男性は貴利矢だった。
この付近で、黎斗を探していたのである。
ゲームスコープをかざし、ゲーム病だと判断を下す。

「ごめんなさい、私のせいで……」

「その辺は後で聞くよ。
笑ちゃんだっけ、バイク乗れる？
まずはニコちゃんをうちの病院まで連れて行かないと」

ゲーマドライバーを片手に貴利矢が問う。
笑が乗れると答えたのを聞いて、爆走バイクガシャットを起動した。

☆☆☆

「なるほどね。
向こうも色々動いてる訳か」

「ごめんなさい……ニコは、どうなるの……？」

これまでのことを話した笑が不安そうに貴利矢に訊く。
貴利矢は安心させるように笑った。

「大丈夫だよ。
ニコちゃんには主治医もいるし、ゲーム病にかかるのも初めてじゃないからさ。
きっとすぐ治る」

だからニコちゃんと話してきたら、と貴利矢が言えば、笑はゆっくりと頷いて立ち上がった。

「さて、自分は……と」

大我にニコのことを報告し「そっちに行く」という返事を貰ってから、いつの間にか戻ってきていた黎斗に目を向ける。

ドラミングのようにキーボードを叩く黎斗が何を作っているのか、それだけは聞き出す必要があるからだった。

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