5 ページ8
「おいお前どうすんだよ…。追いかけようにも、もう見えなくなっちまったし……」
「………スガさん、俺……」
「とにかく落ち着け！
同じ学年なんだろ？明日、あの子のとこ言って謝ってこい。許してもらえるかは分からないけど、まずはそれからだ」
冷や汗が止まらない俺をスガさんが何とか現実に戻してくれた。
喧嘩吹っ掛けたのは俺だし怒らせたのも勿論俺。だけど、今はやってしまったという気持ちの方が強い。
元々抱いていた印象とさっきの言動とのギャップに戸惑いながらも、俺は帰り道でどうやって謝ろうか考え続けていた。
結局、上手い言葉も思いつかず“まず全力で謝って、許されなかったらその時考えればいい”という結論に落ち着いた。
我ながら上出来じゃね？
と思っていたのだが、縁下に
「馬鹿だろお前……」
と冷たく一蹴された。あいつと同じクラスだったので呼んでくれと頼むと、どうやって謝るのか聞きだされた。その結果がこれ。非常に辛辣な一言をくらった。
「……まぁでも、田中らしいよ。ちょっと待ってろ」
俺らしいってなんだ？と思ったが、褒められたのは分かった。
縁下が呼んできてくれたらしい冷泉が教室の扉から顔を出す。
「私を呼んだのは誰だ？休み時間に何の用……。
……もしかして、お前だったりしないよな」
周りを見渡しながらその“誰か”を呼ぶ冷泉だったが、俺の顔を見た瞬間顔を引きつらせる。
俺だと言うと、若干、いやかなり嫌そうな顔をしつつも話には応じてくれた。
「……で、何の用だ？昨日の続きならしないぞ、あんなことに割いてられるほど、私は暇じゃないからな」
俺は息を大きく吸って部活の時のように腹から声を出した。
「昨日はすまんかった！！！お前のことなんて何も考えずについ…！
もし気に食わなかったら殴ってくれていい！」
「……はい？何言ってるんだお前……」
怪訝な顔をする冷泉を見て、俺は失敗したと思った。この言い方は多分許してもらえてねぇだろうな……。
「そもそも、私は別に根には持ってはいない。許す許さないではなく、既に許してるよ」
斜め上の回答に思わず顔を上げると、目の前にあいつの手があった。
「お前からの謝罪も聞けたし、このくらいの仕返しで帳消しということにしようか」
ぺしっと音の鳴っためちゃくちゃ弱いデコピン。比喩ではなく本当に何も痛みを感じない。
それでも満足そうな冷泉を見て、俺も“これでいいんだ”と思わされてしまった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 49人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
森谷きのこ(プロフ) - ひよりさん» コメントありがとうございます。気を付けているところやこだわっているところを褒めていただき、嬉しい限りです。細々とではありますが続けていくので、これからもよろしくお願いします。 (4月4日 22時) (
レス) id: 8dba170153 (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 文章の構成、 情景や感情の表現、言葉選び諸々凄い丁寧で素敵でこの作品に惹かれました！楽しく読ませてもらってます！ (3月31日 1時) (レス) @page19 id: 67c39a707a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：森谷きのこ | 作成日時：2024年2月26日 10時
