【歌い手】歌い手やめると言ったら数分おきに宅配便が来るのですが

3 ページ3

これからちょっとだけお世話になる所は、
きっと一般人なら
目ん玉飛び出るほど高額なホテル。
え？どんだけお金持ちなのって？
大丈夫、私の金じゃないから。

ま、さすがに高いだけはあるね。
私が彼ら対策に早朝に家を飛び出して、
信じられない時間にチェックインしても
嫌な顔ひとつしなかったよ。
仕事のできる人って感じ。
あぁ、安心して。家具は売ったし……
部屋の鍵は大家さんの部屋のポストにインだ。
もう、しがらみは残ってない。

虚しいような気がする。
いや、気がするどころか虚しい。
あの家を出たということは、
もうすぐ東京からも居なくなるってことで、
付け加えるならば、勿論の話だけど、
私はもう、
歌い手をすることはきっとないってことだ。

でも、ま。
彼らが必死の形相でうちに来て、
無駄に時間を費やして、
なんて馬鹿な事せずに済むのなら、
まぁ、いいか。ちょっと安心する。
毎日なんて、
そんな無駄足、ずっと踏ませちゃってたから。

家より少し狭くて、
でもずっと綺麗で、
視界の中にふかふかで豪華なベッドが見える。
どこか懐かしい。

「はーあ、もう歌うことないのかぁ。」

カラオケくらい行けるかな。
フリータイムで歌いまくりたいな。
カラオケか……いいな……
行ったらきっと、諦められなくなるよね。

やめやめ！と私はスマホを手に取った。
連絡先は、家の分だけ。
あんなことしたあとだし、
彼らとちゃんと顔を合わせたことは
水没以降一度もないので、
当然全部データは飛んだ。
バックアップしてなかったことが、
安心するような残念なような。
まぁ、もう、いいけど。

「漫画でも読もう。
なんかいいジャンプの作品ないかなぁ
うらたさんと……あぁ、もう無理だね」

語り合おうと言おうとして止めた。
そんな日はもう来ない。
うらたさんには悪いが、
センラさんや志麻さん、
坂田さんに布教しまくってくれ。
そうして楽しそうに、笑っていて欲しい。

そんな想像ですこし、
心が安らぐ気がするから。

4→←2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す