【はた細】お嫁さんになって！【4989】

愛してあげなさいよ ページ40

「どんな細胞も、いつだって唐突に死んじゃうことはあり得るのよ。確かにそれは仕事に殉じた末の死だわ。でもそのときまでは、確かに一人の人だったのよ。私は私の大切な人のことを、仕事に忠実だった一つの細胞ではなくて、私にたくさんの思い出を与えてくれた一人の人として、いつまでも記憶している」

ね、と先輩はこちらを見て、なぜか嬉しそうに微笑んだ。

「アナタ、その好きな相手は好きだと言ってくれたんでしょ？」
「ええと、記憶が曖昧なんですが…私も相手も割とナチュラルに好きだとかは言ってた気がします…ハイ」
「そう。――A番、アナタだって迷っているのはよくわかる。細胞としての仕事のこと、人としての人生のこと、アナタは真面目だから色々考えているのよね。でもね、アタシは絶対に、アナタのその気持ちを伝えに行くべきだと思うの」
「…でも、」
「ンもう。卑屈にならないで愛してあげなさいよ。かわいそうじゃないの。孤独なまま生きて死ぬなんて。臆病でヘタレで、アタシはあの男のこと概ね気に入ってないけど、好きな子に好きと言えることだけは、結構尊敬しちゃうわ」
「…。4989さんのこと、知ってるんですか？」
「ええ知ってるわ。アナタに何をしてあげればいいのかわからないって、すごくウジウジ……じゃない、悩んでいたもの」

そうだったんだ。きっと私があの人の前で泣いてばかりいたからだ。迷惑かけてたなぁ、という気持ちと、私のことで悩んでくれていたんだという、素直に嬉しい気持ちと。

「彼だってきっと必死なのよ。この広すぎる体の中で、いつ会えなくなるとも知れない大好きな子と、精一杯生きていきたいの。…ねえA番。その気持ちは、アナタだって同じじゃないの？｣

同じ、同じだ。全くその通りで、できることなら4989さんとこの先をずっと生きていきたい。恋を自覚してこの数日中、伝えたくてたまらなかった。でもそれを、仕事のことが足枷となって阻んだ。白血球として生まれたからには、赤血球として生まれたからには、そんなものがこの世にはいっぱいありすぎる。
ずっと悩んでいた。伝えたい、伝えたら迷惑だ、でも、

――最期まで仕事に殉じて無くなったわ。

「死ぬまでのあいだは一緒にいてくれるように、私4989さんのところに行って直談判してきます｣
「？、ええ、｣
「先輩、ありがとうございます。私はやっぱり、好中球とかではなく4989さんに恋をしているって再確認できました。だから、ちゃんと伝えに行ってきます｣

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