【スタミュ】黒崎蘭丸の従兄弟が綾薙に居るⅥ (ページ44)

今日:5 hit、昨日:11 hit、合計:45,398 hit

壁を乗り越えてページ44

稽古合宿を終え、綾薙に戻ってからもハードな練習は続く
合宿のお陰か、行く前と後では演技の重みが変わり、より役の取り合いが激化する

そんな中で、哀葉もまた、別の課題にぶつかる

「最初からだ」

『っ……はい。“姫、ここは私に任せてお逃げください。この先を越えれば別の国です。国境を越えてしまえば追っ手は来ません”』

「“けど、お前はどうするんだ。死ぬのは許さな…っ”」

『“それ以上は、言わないでください。私は姫に仕える一介の騎士。貴方はこれからは亡国の王子だ。…、…王子の命令は、聞けません。たとえ、貴方でも”』

「……やっぱり、男女切り替えで手こずるな」

休憩時間。合間を使って、哀葉は魚住に綾薙祭で演じる役の練習を見てもらっていた
彼の言う通り、彼女は男装している女から、普通の女に切り替わる場面で苦戦していた

『…男女切り替えどころか全体的に不自然っすけどね』

「まあ、全体を通して見ちまえばそう言えるな。まだ克服は出来てないってところか」

『…すんません。稽古の合間に見てもらってるのに』

未だに克服が出来ずにいる、自分自身の演技
稽古合宿中に魚住や、他のアンシエントに見てもらいながら改善は少しずつされているが、最後の一押しが足りない
原因はもう、わかっていた

(自分自身を晒すのが、怖くなったからだ。多分、和泉に隠し通さなきゃいけないって強く思ってた反動かな)

我ながら女々しい。と思う事はあるが、女なのでそういうことにもなるのも事実
それほどまでに、哀葉の中の虎石の存在が大きい

「あ、ここにいた。魚住さん、哀葉、そろそろ時間っす」

そう考えている時にタイミングよく現れた虎石に哀葉は内心苦笑いだった
魚住はというと、これ幸いと言わんばかりの顔をしていた

「丁度いい。虎石、コイツの相手役やってくれ。俺じゃ体格差で少し面倒だからな」

「へっ」

『はっ?何言ってんのうおさん!?』

御構い無しに魚住は持っていた哀葉の台本を虎石に渡す
やることは強制のようなので、腹をくくるしかない

「黒崎、怖がんな。自分を押し殺すな。目の前にいる奴はお前がどうしようと全部受け止める。そう思え」

魚住の言葉に、哀葉は思わず目の前の虎石を見つめる
彼は二人が恋人である事は知らない。けれど彼女には大きな一歩を踏み出す言葉だ

(荒療治って感じだけど)

『じゃあ、和泉、ちょっと頼むわ』

「おう」

「はじめ!」