part 8 「相合傘」 ページ9
『あの、濡れてません?』
「濡れてませんよ。むしろすみませんね、狭いでしょう?」
『いいえ。大丈夫ですよ。』
普段通る暗い道も、今日は隣に人がいるからか、全然怖くない。ぴちゃぴちゃと2人分の足音が、静かな住宅街の中に消えていった。
「そういえばお名前お伺いしていませんよね。聞いてもいいですか?」
"ちなみに俺は黒尾鉄朗って言います"
黒尾さん。と名前を読んでみると、はいなんでしょう?なんて返事が返ってきた。その表情はまたあの胡散臭い笑みで。少しおかしくて、ぷっと吹き出してしまった。
「ちょっと。笑わないでくれません?」
『すみません・・・面白い人ですね。黒尾さんって。』
「・・・貴方の名前は教えてくれないんですか?」
水溜りに映る街灯がぼんやりと明るく照らす。別に自分の名前を教えるなんてそんな難しいことでもないのに、なかなか言えなくて。乾く唇を少し舐めて、わたしは名乗った。
「A、さん。」
『は、はい。』
「・・・かわいい。素敵な名前ですね。」
『ありがとう、ございます・・・』
"かわいい"
彼がきっとなんの気もなく言ったであろうその4文字。でもそれが心に深く刺さって。きゅう、と胸が締めつけられる。これは恋なんかじゃない。恋と思いたくない。でも、初めて経験する不正脈だった。このままずっと話していたい。その儚い願いも、終わりを迎えた。
いつの間にか家の手前の曲がり角にやってきていて。名残惜しくも、わたしは「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました。」とお礼を言って、傘から抜けようとした。
また明日からも常連さんと店員。しっかり気を持たなければ。そう自分に誓う、その瞬間。
「・・・ー待って。」
27人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆん - そーめんさんの表現力天才〜!続き待ってます!お体に気をつけてくださいね…! (3月2日 18時) (レス) id: ec9d942a77 (このIDを非表示/違反報告)
処刑人 - はい、好き〜〜。続き待ってます。 (3月1日 22時) (レス) @page6 id: 7578fd3293 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:そーめん | 作成日時:2024年3月1日 17時