好機 ページ5
二人、無言で歩き続ける。
相変わらず怖いのに変わりはなかったけど、キバのおかげで少し安心してきた。
「……なぁA」
「ん…?」
キバが何も言わずにわたしの歩幅に合わせて歩いてくれる。
「どうしたの…?」
「………」
その、なんだ、と素っ気なく呟く。
「前はいろいろ、ごめんな…女子の準備なんて、時間かかって当然だったよな…」
「……」
キバが、「…怒ってる?」
ぼそりと聞いてくる。
「………何。なんか、キバらしくない。気持ち悪い」
「はッ!?」
だって、そんな風に言われちゃ…素直になんて、なれるわけないじゃん。
「んだよ、せっかくこっちは素直になってやってんのによ…」
キバが片方の手で頬をかく。
「………」
「…なぁ。」
「…?」
「………明日の朝、一緒にアカデミー行こうぜ」
………え?
「で、でもわたし…また遅くて怒らせちゃう」
「お、俺はそこまで短気じゃねーよ!」
「ほんとに?」
おう、とキバは目を合わせて笑った。
そんな笑顔に、またキュンとしてしまうわたしは…やっぱり、素直になれない。
「し、仕方ないなぁ…いいよ」
「マジで!?」
そうやって、素直に喜んでくれるところが、無意識なのかなって思って、余計に恥ずかしくなる。
「よし、着いたぜ!」
アカデミーの外に出る柵まで来た。
手を伸ばせば届く距離にある柵のてっぺん。
「っと…」
キバが先に柵を乗り越えた。
「A、来れるかー?」
「だいじょう、ぶ…っ」
つま先が柵に引っ掛かって、バランスを崩した。
「おいっ、A…!!」
キバがわたしを受け止めて、そのまま一緒に地面に倒れ込んだ。
「っ…」
「Aっ、大丈夫か…?」
「う…ん」
気付くと、キバの上にある体。
「あっっ!ご、ごめんっ…」
急いで離れようとするが、なぜか髪の毛が引っ掛かって取れない。
「やべっ、チャックに…」
どうやら、パーカーのチャックに髪の毛が絡まってしまったみたい。
「じっとしてろ、今取ってやるから…」
〜〜〜〜ーーーッ!!!!!
どうしよ、どうしよ……今、すごい密着してるよ……っ!!
心臓の音がキバに聞こえちゃうんじゃないかってくらい、バクバクしてる。
はやく、はやく取ってよ……!!
「ん〜…?暗くて全然見えねえな……」
そうしている間に、さっき来た抜け道の方から誰かの気配を感じる。
「キ、キバ……」
「チッ!」
わたしを抱えて、キバは草っぱらに飛び込んだ。
4人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハルサカ | 作成日時:2015年8月13日 6時