𓂅 ページ18
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下など、もうとうに見飽きていたのに。
自分の足先が広がる、真下なんて。
「……本当に不躾なお願いだとわかっています。
それでも、どうか。どうかお願いします。
───立花彩さんのお部屋に、
入らせてもらえないでしょうか」
手を合わせるでもなく、部屋に入る。
こんな突飛で荒唐無稽なお願い、
聞き入れてもらえるかどうかも怪しい。
けれど、でも。
それでも僕らは、彼女の遺影の前で、
いま手を合わせることはできない。
だって、いま、彼女は。
立花彩は、ここにいるから。
僕らの目の前で、
僕らの前を、歩いてくれているから。
若武の言葉を合図に、
全員揃って頭を下げていた。
……実際、何度だって来るつもりだったんだ。
聞き届けてもらえるまで、何度も、何度も。
何十回、何百回。
たとえ、アーヤがいる間に達成できなくとも、
ずっと、来るつもりだった。
……だから、すごく驚いた。
「……うん。いいよ。さあ、みんな上がって」
こんなに、すんなりと許可を出してもらえたことに。
「……い、いいん、ですか?」
「……うん。きみたちは、彩の友達だろう?
彩本人から、よく聞いていたし」
きみたちが見なければならないものが、
もしかしたらあるかもしれないから。
そう言って、やわらかく。
でも哀しげに微笑んだアーヤのお父さんの笑顔に、
不意に、泣きたくなった。
アーヤがいなくなるまで、泣かないって。
目を瞑ることはしないって、誓った、けど。
この時ばかりは、
それを違えそうになった。
「……ぁりが、とう、ございます。
ほんとうにっ……、ありがとぅ、ござぃますっ」
時々、声がかすれてかき消えそうになりながら。
それでも、僕らに示せる誠意の五文字を、
必死に絞り出した。
「……妻の方は、ごめんけど会わせられる状態じゃないんだ。彩を亡くしてしまったことが、相当こたえているらしくて」
いそいそと玄関に上がり込んだ時、そう聞かされた。
そこでようやく、
アーヤのお父さんが出たことに合点がいった。
……塞ぎ込んでしまうのなんて、当たり前だ。
自分の娘をひとり、失ったんだから。
前触れもなく、唐突に。
なんの言葉も返せず、
そもそも声をかけていいのかすら迷われて。
結局僕らは、全員黙ったままだった。
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A - 完結おめでとうございます!掲載当初からずっと追ってきた作品で、毎日更新されていないか確認するぐらい大好きな作品です。本当に完結おめでとうございます。ここまでおつかれ様でした。そして、こんなに素敵で感動する、最高の作品をありがとうございます!! (8月4日 12時) (レス) @page50 id: 6c0c6ff6b3 (このIDを非表示/違反報告)
レイ - 完結おめでとうございます。主さまの書かれるどこか儚いような、綺麗でどこか切ない文章がだいすきです。 (8月3日 17時) (レス) id: 39b04079dd (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - 完結おめでとうございます🎊私も天奏さんと同じでたくさん泣きまくりました。「春の向こう側で、きみを待つ」やあとがきで伝えてくれたことはとっても大切で、この話を読んで改めてまた、しっかり生きようと思わせてくれました。本当に天奏さんはすごいと思います! (8月3日 15時) (レス) id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ - わかりました!あと土下座はしないでくださいね。こっちまで申し訳ない気分になるので! (8月1日 12時) (レス) @page42 id: 6ccf209779 (このIDを非表示/違反報告)
天奏 - ユメさん» たいっへん長らくお待たせしてしまって土下座したい気分です有言不実行な作者ですみません……。あと一話更新したのち、完結まで突っ走れると思います!これはほんとです!!あともう少しだけ、彼らのお話に付き合ってもらえるとありがたいです。 (8月1日 9時) (レス) id: 9f30b1fbf3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天奏 | 作成日時:2022年6月9日 16時