太宰さんの女癖が悪すぎるので仕返しをする所存である【太宰治】

仕返し18 ページ21

私の腕を引っ張り探偵社とも家とも違う方向へ歩き続ける太宰。その表情は硬く、手に込められた力はとても強い。僅かながらも感じた痛みについ息を飲み込めば、太宰は立ち止まって私の腕をつかむ手を離し、少しだけ赤らんだそこを指で撫でた。





「･･･痛かったかい？」



「･･･少しだけ」





すると太宰はくしゃりと顔を歪ませ私を抱きしめた。ひび割れたガラス細工に触れるように優しく、けれど絶対に離さないとでも言うようにしっかりと。





「すまな、かったね」



「太宰･･･」



「私の責任だ。子供染みた感情に振り回され、君を傷つけた」





呟く声は消え入りそうな程に小さくて弱々しい。まるで4年前のあの時のような、零れ落ちる大切な物を為す術なく見送るようなその声色は、私の胸を酷く締め付けた。





「分からないんだ。何時だって私に微笑み、どんな所業でも許しを与える君が何を考えているのか、どう接するべきなのか。だから私はっ･･･！」





話し続ける太宰を遮るように強く抱き締め返す。私達はすれ違っていただけだ。私は許しを与え見ぬ振りを貫くことで愛を伝えようとしていた。太宰はそれが伝わらず、私の愛を確認しようとしていた。



言葉にすればこんなに簡単なことなのに、どうしてここに辿り着くまでんこんなにも時間が掛かってしまったのか。それはきっと、私達が歪だからなのだろう。でも、もう────





「ねえ太宰、終わりにしよう」



「っ、A･･･？」



「私達はあまりにも歪で、綺麗な形に収まることは出来ないんだよ。だから「駄目だ！」



「それだけは駄目だ！私は、君まで失ってしまえば、もう･･･！」





取り乱すその様子は太宰とは思えぬ程だ。僅かに震えるその背をあやす様に叩き、聞きたくないと言わんばかりに縮まるその人へ言葉を続けた。





「違うよ太宰。･･･全てを砕き、終わらせるんじゃない。やり直すの。」



「やり直す･･･？それは、どういう、」



「もう一度、互いを知ることから始めよう？歪な部分を知って磨いて、綺麗な形にしよう」





太宰の美しい瞳から涙が零れ落ち、私の頬を伝う涙と1つになった。





「この涙みたいに1つになって、ずっと、一緒に、私とっ･･･！」




溢れ出る嗚咽で最後まで話すことは叶わなかった。でももう大丈夫、私達はきっと──────








「君は本当に、最高の女性だよ」







泣きながら微笑む太宰を見つめ、私は静かに目を閉じた。

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