ページ ページ31
.
福良さんの言葉通り、みんな拓朗が来る前に帰っていく。
「戸締りよろしくね」
「はーい、わかりました」
最後の最後まで私といた伊沢さんも荷物をカバンにしまって帰る準備をしている。
「あ、あんまイチャつくなよ？」
「…いやなんで今それ言うんですか？」
伊沢さんは笑いながら私に背中を向けたまま手を振ってはぐらかす。
伊沢さんのことだし、何か企んでるんだろうなぁと私もその背中に笑ってしまった。
「大丈夫ですよ」
「まぁ何かあったら呼んでよ。多分来るから」
「ものすごく頼りなかったですよ今」
“だって邪魔したら川上になんて言われるかわからねぇし”
そう言ってドアに手をかけた彼は私に“また明日”とだけ言うと、ドアを開けてそそくさと帰ってしまう。
「おつかれさまでしたー…」
最後の方は扉越しになってしまって半ば自嘲しながら、私はオフィスの中へと歩いていく。
ガチャ…
伊沢さんがいなくなってすぐ、扉が開いた。
忘れ物でもしたのだろうかと思いながら振り返ろうとした時、後ろからふわりと抱きしめられる。
「…え、拓朗…？」
ふわりと後ろから香るその香りに従って名前を呼ぶと、小さな声で“そうやよ”と耳元で囁かれる。
「…で、なんでAはそんな可愛い格好してるん？」
「…か、かわい…？」
パーカーにスキニージーンズというどこにでもいそうな格好にどこが可愛いのかと首を傾げると、彼は小さく息を吐いた。
「彼女が自分の服着てるとか、ホンマにいろいろ抉られるで」
「…え、あ、ごめん…」
“いやそこに関しては怒ってへんよ”
うっすらと笑う彼はいずれかの部分で怒っているらしく、やっぱりなんで怒ってるのかわからなくて私は首を傾げた。
「なんで俺より前にその格好他の男に見せてるん」
目を逸らしながらそう言った拓朗に思わず私は笑ってしまった。
「ちょ、俺は本気なんやけど」
「んーん違う違う。そういう所も好きだなぁって思っただけだよ」
私がそう言うと、彼は少しだけ顔を赤らめる。
「…今から脱がしてもええ？」
「いやダメです」
私がそう言うと、彼は私を今度は正面から抱きしめた。
「案外Aもずるいとこあるよな」
なんの事だかわからずに、私がキョトンとしていると、彼は少しだけ私と離れた。
「…惚れた弱みってことで」
彼はそう言うと、私の額にキスを落とす。
甘くて柔らかい空気がオフィスを包んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 745人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
虹希(プロフ) - 莉華さん» コメント並びにご愛読ありがとうございます。申し訳ないことですが、こちらの作品の後継者の方はありがたいことに既に決定しております。お気持ち、大変嬉しいのですが…。そのお気持ちを、ありがたく受け取っております。これからもこのかわかみかっぷるをお願いします (2020年2月16日 13時) (
レス) id: 6f6e5985a0 (このIDを非表示/違反報告)
莉華(プロフ) - 初コメントです。いつも読ませて貰っています。もし、前にいなければですが、私が力になれるなら、この作品を継がせて頂きたいと思っています！最後になりましたが、合格、本当におめでとうございます！ (2020年2月16日 7時) (レス) id: 907e72034e (このIDを非表示/違反報告)
虹希(プロフ) - しろまるさん» ありがとうございます。こんな作者の作品を見てくださり、本当にありがとうございます。残り僅かではありますが、よろしくお願いします (2020年1月24日 7時) (レス) id: 6f6e5985a0 (このIDを非表示/違反報告)
しろまる(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます！大学合格おめでとうございます！いつも作品を拝見させていただきありがとうございます！残り短い期間ですが楽しみにしてます！これからも応援してます！ (2020年1月23日 22時) (レス) id: ded50f1d5d (このIDを非表示/違反報告)
虹希(プロフ) - 京北わかさん» ありがとうございます。残り期間はわずかとなりますがその期間もこれまでと変わらない応援をよろしくお願いします。 (2020年1月16日 17時) (レス) id: 637c3be836 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
