ガーデン (ページ2)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:32,177 hit

・ページ2

長年、開けなかった扉を開ける。

中の空間を予想して、心がホッと温かくなった。

あまり覚えていない、玄関と、そこから伸びる廊下。

どこが何の部屋で、なんてことも覚えていない。

そんな僕の様子に気付いたのか、ついておいで、と兄に言われ、それに従う。

1番手前にあるドアを開かれる。

ああ、やっぱり温かい。

あんな、真っ白な、静かな部屋じゃなく。

いろんなものがあって、騒がしい空間。

「あ、おかえり」

「結構早かったんですね」

「た、だいま」

「ありゃ、翔ちゃん、また泣いちゃう？」

「な、泣かない！」

やはり優しく微笑む兄に、怒る気なんて起こらない。

「ほら、翔ソファに座ってな。疲れてるだろ」

「って、ちょっと。なに雅兄まで座ろうしてるんですか」

「え？俺？」

「雅兄は手伝って」

「えぇ…。俺も疲れてんのにぃ」

「ほら、早く」

いつも、こんな感じだったのかな。

想像すると、ふふっと笑えてくる。

「なにか、良いことでもあった？」

「あ、智くん」

「おかえりなさい」

「ただいま。智くんは、手伝わなくても良いの？」

「んー、面倒くさい…かな」

「ふふ、じゃあ僕手伝ってこようかなぁ」

「え、じゃあおいらも行く」

兄たちが騒ぐ、大きなテーブルへと向かう。

そのテーブルの上には、僕の好きなものとか、いろんなものがあった。

「うわぁ、うまそう」

「智、宿題終わったの？」

「翔くん帰ってきてんのに宿題なんて勿体無い」

「終わってないのね」

はぁ、と大袈裟にため息をつく、和くん。

「翔ちゃん、どうしたの？」

「僕も、手伝おうと思って」

「良いよ、座ってな」

「やりたいの」

「じゃあ、これ運んでくれる？」

握らされたのは5本のスプーン。

柄の色がそれぞれ違う。

確か、赤が僕の色だったはず。

「お、よく覚えてんじゃん」

「記憶力は良いの」

「でもさっき、迷子になりかけてなかった？」

「雅くん、やめて」

こんなに喋ったのは何年ぶりだろう。

さっきまでの寂しい気持ちは、どこかに行ってしまっていた。