流れる季節の真ん中で(磁石) (ページ33)

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あの後、大野さんは仕事があると言って移動した。ICUの前には俺しかいない。

未だに目を開けない彼にイライラしたり、不安になったり、悲しくなったりで、俺の心は忙しかった。

「翔ちゃんの撫で肩、ヘタレ、ビビリ」

なんて言葉も、すぐに反応していたくせに、今は何ともないように眠っている彼にイライラしてしまう。

ビビってねーしって言って、笑ってくれたらいいのに。

そんな小さな願いも叶わなくて、神様さえも恨んでしまう。

もしかすると、いや、もしかしなくても明日彼は伴奏できない。

伴奏しているのは別の人で、俺の指揮とも合わなくて、グチャグチャになって失敗する。
なんてところまで目に見えているように分かってしまって。

今頃みんなは困っているのだろう。伴奏者と指揮者が同時に休んでて、明日は本番。申し訳ないことをしたとは思っている。思っているけど、

翔ちゃんと一緒に出たかったんだ。

「二宮くん」

相葉さんと話をしていたAさんと彼のお母さんが声をかけた。

「もうね、退院させようかって」
「…は？」
「二宮くんも気付いてるんじゃない？」

気付いてるよ、気付いてたけど信じたくなかったんだ。

彼がもうすぐ居なくなるなんて。