Aimer Ⅱ (ページ37)

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Aは俺を呼ぶ時、”ねえ”から始める。
昔っから変わらん癖にこいつは気づいてんのかな。

「なあ、A」

『な、何……』

両頬を両手で包んでいる。チークのせいか、照れているのか顔が赤かった。

「何でAは”ねえ”から始めるん？」

『え？』

気づいてなさそうなAに事実を伝える。

『分からん……。でも遥輝も人のこと言えんよ？』

「え？」

今度は俺がキョトンとする番だった。

『遥輝も”なあ”から始めるやん』

「ほんまに？」

『ほんま。昔からやで？』

なんやこれ、お互い様やん。言葉は違えど同じような癖を持つ俺らはやっぱり近い環境で育ってきたんやな、と実感する。

Aはいたずらっ子のように目を細めた。

『私達似たもの同士やね？』

「そうやな。しかも今まで気づいてへんかったし」

『アホすぎる』

恋心を抱くのが怖い。付き合ってみれば、何を臆病になっていたかバカバカしいほど俺達は変わらない。

Aが笑うから俺もつられて笑った。

「お互い様やわ」

俺らは長い隔たりを経て強い絆で結ばれた。昔と違うのは幼馴染でありながら男女の仲でもある。双方の両親、姉ちゃん、Aの弟が聞いたら驚倒するに違いない。

俺が惚れた女は音楽的センスと料理の腕に長けた器用な子。アホでチビで照れ屋やけど、しっかり者で1番に俺を理解してくれる。

「カレーはルーから作る？」

『時間があったら作りたいけどもう真っ暗やから買う』

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「ただいまー」

『おかえりー』

間延びした挨拶が返ってくる。こんなに緩い子がカレールーまで作りたいと言い出すなんて正気か？
でもてくてく歩いていく後ろ姿はやはり……

「ちっちゃいよなあ……」

『誰がチビだ！』

勢いよく振り向いたAはムッとしている。

「チビとは言うてへんやん。ちっちゃいとは思ったけど」

『ねえー……』

今度は不貞腐れてほっぺを膨らませる。リスみたいで可愛い。

決して貶しているつもりはない。Aがモデル並みに大きかったら、きっと俺はAのことを好きになってへんと思う。

「そんな拗ねんなや」

『遥輝が余計なこと言うから……』

シュンと目線を落としたAの顔を無理やり上げる。

「でもちっちゃいAが好きやねんで、俺」

Aの顔はみるみるうちに染まっていった。