泥の上で踊る (ページ3)

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注意(縁視点) ページ3

しばらく呼吸ができなかった。

胸に手を当て、自分が生きている事を確認し、ため息をつく。

これで7回目の失敗だ。
死ぬ寸前まで来ても、結局怖じ気付いて逃げてしまう。

屋上の床にへたり込み、顔を手で覆う。

何故か目から涙が溢れた。
誰にも聞かれない様に、声を押し殺して泣く。

出来れば顔に泣き跡を残したく無い。

一頻り泣いた後、立ち上がり、靴を履いて屋上を出た。

泣いた顔を見られたく無いから、うつ向いて歩く。

下校時刻ギリギリまで残っていたお陰で、生徒にはあまり会わなかったのが幸いか。

………顔を洗ってから帰ろう。

そう思い水場に行くと、見覚えの無い男性の姿があった。

誰だろうか。

そう思って男性を見ていると、向こうが私に気付いた。

綺麗な人だった。明るい茶髪と茶色い目。
鼻筋が通っていて、背もすらりと高く、脚が長い。

その人は、私を見ると微笑み、

「…こんにちは。」
と挨拶をした。

「…こんにちは…」
私も返す。

「…あ、ごめんね。俺、不審者とかじゃ無いよ。」
「あ、はい。…」

「えーと、俺は…明日から教育実習生としてここに来る、雪成星夜です。よろしくね。」

ああ、と私は納得した。
教師にしては彼は若すぎる様に感じたのは、彼が大学生だからか。

「あ、そうなんですね。
私は3年2組の綾瀬縁です。」

一応自分の名前を名乗る。
少しだけ沈黙する。雪成さんは、私をやけに見つめていた。

はっとした。

「…花粉症なんです。」
とっさに嘘をついた。

「あ、そっか！何かあったのかと…」

雪成さんはほっとした様な顔をする。

「…それじゃ、私帰ります。明日から宜しくお願いします。」
顔は帰ってから洗うことにして、私はその場を離れようとする。

「はい、さようなら。」
雪成さんは私に手を振る。

「…あ、綾瀬さん。」
呼び止められた。
「…はい？」

雪成さんはぱっと笑い、こう言った。

「飛び降りは、ダメですよ。」