キミの一番近くで【御幸一也】 (ページ36)

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Aちゃんの葬儀から1ヶ月後
俺はある人から電話をもらった

「急に呼び出してすまなかったね」

「いえ、とんでもないです…」

Aちゃんの葬儀以来
久しぶりに会った彼女の両親は
すっかり痩せ細ってしまっていた

「少しだけど、私たちも落ち着いて
昨日、Aの部屋を整理したの。
それでコレを見つけてね」

そう言って出された紙袋の中を覗くと
Aちゃんがいつも愛用していたビデオカメラと20枚以上のDVDが入っていた

「これって…」

「君ばかりが映っていたよ。
父親として妬いちゃうくらいね」

そう、冗談っぽく言って笑う
Aちゃんのお父さんに、俺は苦笑した

「これは御幸くんへ
Aからのプレゼントとして
貴方に持っていて欲しいの」

「…いいんですか？」

「ああ。もちろん。
Aがどれだけ御幸くんを見てきたか
応援してきたかを忘れないでいて欲しいんだ。
受け取ってくれるかい？」

「はい。大切にします」

寮に戻ってから、俺は誰もいない食堂で
Aちゃんが今まで録ったDVDを観た

本当に俺ばかりで、ランナー居なくて引っ掛けた
カッコ悪ぃバッティングから
好調だったときのバッティングまで

いろんな場面が保存されていた

『打てぇー！御幸くん！！』

本人が録っているから
Aちゃんの声援が聞こえてくるのは当然で

だけど、それが今さら奇跡に思えてきて
思わず涙が溢れた

中学までは、
他の誰かを応援する彼女の声しか聞けなかったけど

あの日、あの時

『わっ、私も！やっぱり、青道に行きます！！』

初めて、Aちゃんが
他の誰かじゃなくて俺を選んでくれたって
勝手に思い込んでは密かにはしゃいで

そして、やっと高校で俺の応援する彼女の声が聞けた

それが、いつの間にか当たり前に感じていて
忘れてしまっていたんだ

好きな人に声援をもらえることは
当然なことじゃない、奇跡で

この声援があったからこそ俺は頑張れたって…。

その夜、俺はまた夢を見た

あの夢の続きを…

『御幸くんが大好きです』

「俺も…Aちゃんが大好きだよ」

やっと想いを伝えて、俺は彼女を抱きしめる

『たとえ…御幸くんがこれから歩む未来に私が居なくても私は御幸くんの一番近くでこれからもずっと
御幸くんを見てるから。だから…迷わず進んで？』

そう言って微笑んだ優しくAちゃんは俺に
最後に触れるだけのキスをして

俺の腕の中で光となって消えてしまった