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さて、この芹沢鴨という男、近藤たちの――というより、土方の――気に入るような部類ではなかった。
このような大集団だ。
自然、宿割りという役目が必要とされた。
宿割りというのは、諸大名、幕臣が道中する時、家来衆が先行して主人の泊まる宿、家来衆の泊まる宿を、階級に応じて割り振る役目だ。
新徴組でも、平隊士の中から選んで、順次その役目につかせた。
そして、本庄宿において、近藤がその役目についた。
事件が起こったのは、この時である。
近藤は道中を先行して、宿をそれぞれに割り振った。
ところが、そこで手違いがあったらしく、よりによって芹沢の宿がなかったのだ。
芹沢は、夜冷えるので
「何をするんだ、芹沢さん!」
土方は叫んだ。
だが、芹沢は構わない。
暗い夜空を赤々と焼く篝を、満足そうに眺めている。
この篝は、近藤への当てつけなのだ。
近藤は結局、往来で芹沢に土下座することとなった。
腹に据えかねた土方は、己の精神力を総動員して何とか堪え、芹沢を睨みつけた。
その少し斜め後ろで、沖田もきっと睨んでいる。
もはや、と刀に手をかける彼を、土方は止めた。
「……どうもやりすぎだよなあ」
少し離れたところで、永倉が呟いた。
その言葉に、原田も藤堂も頷く。
「だな。あんなことしたら、後がやべえだろ」と原田。
「あんなの見て喜ぶの、Aくらいじゃねえの」と藤堂。
原田がそれに答える。
「ああ、事情を知らなけりゃ喜ぶだろうぜ。何しろ彼奴は、江戸の二大名物が殊の外好きなんだから」
「そうそ。火事と喧嘩は江戸の華とか云ってさ」と藤堂が茶化した。
軽い口調で話してはいるものの、三人の表情は一様に厳しい。
なお、会話中に出て来た「A」なる人物については、後に詳しく説明することになろう。
「いつか、あの人とは袂を分かつことになるでしょうね」
また少し離れたところでは、山南がそう云った。
井上は、篝を眺めていた。
「ああ。……そうならないことに越したことはないと思うがね」
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Chris(プロフ) - ファーストMeさん» わーいありがとうございます! こっちの作品も神様ネタありますから、待ってて下さい! (。>ω<。)ノ (2017年6月15日 13時) (レス) id: c0c9efb09c (このIDを非表示/違反報告)
ファーストMe - “刀と共に生きてきました”から来ました!この作品も凄く良かったです!!更新待ってます!! (2017年6月15日 13時) (レス) id: d48a818a0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/
作成日時:2017年5月23日 0時