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こっちに近付いてくる鎧の後ろへ視線を向ける。
――――そこには、腹から大量の血を流し力無く横たわるAの姿があった。
脇腹を掠めた俺とは比にならない出血量。Aはもろに斬撃を受けてしまったんだ。徐々に広がっていく血溜まりに、あまり猶予がない事が伺える。
肩で呼吸をしたまま動かない妹を凝視している間にも、胴体はこちらへと距離を詰めていた。
「ひとつの鎧にひとつの魂とは限らねーだろ」
「言い忘れていたが、“スライサー”という殺人鬼は……」
「兄弟二人組の殺人鬼だったって訳よ」
「……頭と胴体で別個かよ…クソッ」
早くAの傷を塞がなければならないというのに。殺人鬼2人を相手にしていては近付きさえ出来ない。
「さぁ、第2ラウンドといこうぜおチビさんよ。と、その前に兄者にならって俺も血印の場所を教えといてやるか」
胴体は鎧の中にある血印を指差し、挑発するように笑った。
***
―――腹が、熱い。
しかし体温はどんどん冷たくなっていく感覚がする。どのくらい気絶していたのだろうか。
揺れる視界に広がるのは、上下にバラバラにされた腹を突いたあの忌々しい胴体と48、そして脇腹を抑え柱にもたれるエドの姿。
情けない。また私は何も出来なかったのか。
とりあえず応急処置をしなければ死ぬ。医療方面の錬金術は殆ど知識が無いが、流れ出た血で新たな出血を抑える栓ぐらいの役割は果たしてくれるだろう。
『……っ』
痙攣する手で錬成を始めようとすると、コロッと、視界の端に何かが転がるのが見えた。幸いソレは手がギリギリ届く所に転がっている。血液で栓をしてからソレを拾って見ると―――
『！これは…』
―――賢者の…石？！
その石にも満たない小さな紅い粒が何かを理解した瞬間、頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
「それでお腹の傷を治しなさい」
『………ソラリス、さん？』
声の主を見上げてみれば、そこには黒髪の美しい女性―――ソラリスさんがいた。紅い瞳で艶やかに微笑みながら見つめてくる彼女に、どこか私は不気味なものを感じた。
「ソラリス、ね。まあいいわ、早くその石を使って傷を治しなさい。あなたは大切な“人柱”なんだから…ここで死なれちゃ困るの」
『人…柱？』
「その石はあなたにあげるわ。きっと一度きりしか使えないでしょうけど」
『……悪いけど、私は使わないよ。それに拙いけど傷は塞いだからな』
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作者名：はちまき | 作成日時：2022年2月20日 1時
