第十二話 ページ13
「そこに山があるだろう？ あの山ん中には小さな村があってな。詳しいことは知らんが、数日前に来た商人が村ごと全滅していたと言っていた。人も家畜も死んでいた、と」
大工は村のすぐ側にそびえる山を示し、不可解そうな顔をする。
「隣村と言っても、ほとんど関わりはなかったんだが。何度か行商に行った奴がいたが、それきりだ。あとはとんと話に聞かねぇ」
「……流行り病、でしょうか？」
村ごと全滅するなど、よほどのことがなければあり得ない。流行り病か、あるいは別の要因か。
もし流行り病ならばこの村も危ないのでは、と顔を上げた紫月の言葉に大工たちが笑った。
「たとえ流行り病だとしても、うちの村は大丈夫だろうよ。なぁ？」
大工の言葉に周囲もうんうんと頷く。
「この村は彼岸花が守ってくれとんだ。流行り病だろうが何だろうが、彼岸花が咲いてる限り、俺たちは大丈夫だ」
「彼岸花が……ですか？」
「魔除けの花だからね」
視界の隅に映る紅き花。
村の周囲のみならず、村の至る場所に咲き乱れたそれは、魔除けと言うにはどこか禍々しい。
「……なにゆえ、彼岸花なのですか？」
点々と地に咲く花を見つめる紫月の疑問に、大工が首を捻る。
「確か、仏さんの花だから何とか……ああ、詳しい話は村で一番年寄りの婆さまが知ってるよ。だいぶ物忘れが激しくなってるが、まだ元気な婆さまだよ」
そう言い、大工はその婆さまとやらの住んでいる場所を教えてくれた。
そこからまた話題は移り変わり、紫月も乞われるがまま三味線を弾いていたが、思考はそれとはまったく別の場所に飛ぶ。
(……山の村の全滅……魔除け……彼岸花)
しゃん、と甲高い音を弾きながらも、ちりちりとした予感がうなじを這う感覚に、紫月は唇を噛み締めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：赤青ほととぎす/瑪瑙 x他1人 | 作者ホームページ：http
作成日時：2018年11月27日 22時
