情 ページ23
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【あなたの 言葉で】
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そこに在った言葉を、つうと人差し指で撫でたら
何かが、すとんと、腑に落ちたような気分になった。
「カメラは嫌い…向けられるのが…、自分が映ってんのもやだ、ちょっとのことで…色んな人に迷惑かける…悲しくさせたり…、は、もうやだ…
外も自由には……ね、電車も宅配も携帯も、ふつうにはダメだし…、昔 仲良かった人たちが、どんどん不自然に離れてって、…嫌いになる……自分のことも、人のことも…」
大野は、窓の外を眺めていた。
変わりばえのしない、平凡な景色が、後ろに後ろに流れて行った。
遠くなる、と思った。城崎が遠くなる。
あの人の居る場所が。あの人たちの居る場所が。
あの人の言葉が。歌が。
どんどん思い出になる。
----『もっとわがままにして良いんです。自分ばかり守って、良いんです』
----【あなたはきっと、そうするなと言っても 人のために涙や笑顔を使うと思うから】
「…ライブの時に」
あの街を流れていた、穏やかな川のことを想った。
散っていた柳を想った。
あの人の笑顔を想った。あの料理の味を想った。
あの人の、言葉を想った。
思っていたほど、寂しくは無かった。
「客席のライトが明るくなるとき、あるでしょ。それがいちばん…なんか、ね。お客さんの顔が…見えて……こっち見てて、…笑顔とか……」
運転席は静かだった。
静かに走る車。大野の落ち着いた声だけが、とうとうと、零れるように鳴っていた。
----【どうしようもなかったら、また此処に来てください】
あの人たちの居る城崎が、自分にとっての変わらない場所であるならば
自分もきっと、誰かにとっての変わらない場所なのかもしれない。
言葉も人も、……歌だって、きっと。
誰かにとっての救いならば、誰かにとっては、傷になる。
----『自分が傷つけられたと思っている分くらいは、
知らないうちに誰かを傷つけているものですから』
どうせ、そうなんだ。
だから大丈夫。
まだ、大丈夫。
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「ちゃんと、大事に しないと…ね」
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二宮は黙ったまま、ハンドルに置いていた左手で、ざっと掻くように目元を拭った。
そのままその手で、浮いた熱を冷ますように額に手を当て、次は頬を拭い、けほ、と潤んだ咳をした。
少し遅れて、う、と耐え切れなかった嗚咽が漏れた。
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「やめないよ」
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きんにく(プロフ) - イチさん» なんとー!そんなに大切に読んで頂けるなんて幸せすぎます。本当にありがとうございました。これからも頑張ります♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - もふもさん» こんな未熟な作品に涙などとてももったいないですが、嬉しいです^^そう言っていただけると頑張れます!ありがとうございました。 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!心温まる最後にできていたのであればとてもとても嬉しいです♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
イチ(プロフ) - きんにくさん、こんばんは。最終回を読みたいのに、終わってしまうのがもったいなくて、ちょっと読んではやめを繰り返していました。毎回思いますが、きんにくさんの描く世界が美しすぎて、読んでいて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました。 (2021年1月17日 21時) (レス) id: 9e72143338 (このIDを非表示/違反報告)
もふも - きんにくさん、完結ありがとうございます! きんにくさんのお話には毎回泣かされます(/ _ ; ) 心温まる場面が多くて、つい何度も読んでしまいます。素敵な作品ありがとうございました!これからも応援してます!!! (2021年1月17日 1時) (レス) id: f5de961c82 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2021年1月2日 0時