花を想ふ 2【ARS/山/ｵｵﾐﾔ】

花 ページ12

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【人が、嫌いですか】



【起きられますか】



【今日は、もう少しお眠りになったほうが良いような感じがします

　食事は明日も出ます 風呂屋も、明日も開きますから】




【でもまあ、こんなのは言葉遊びです】



【手を出せますか お茶を淹れましたので】

【ぶどう茶です】


【昨晩はほとんどお食事をなさらなかったので…】




【うれし城の崎 身にしみじみと湯のかをり 都はなれた 湯の都】




【いい短歌があるので添えておきます】

【あるのとないのとでは、ずいぶん違いますから】


【雨でもなかなか綺麗でしょう、ここは】





【そんなに無防備にしてて良いんですか】

【わざとです どうしても出たくなるだろうと思って】




【城崎の いでゆのまちの秋まひる 青くして 散る柳はらはら】




【人は好き だから怖い】




【ここには綺麗な言葉が多いように思います

　どれも、あなたを傷つけるようなことは無いと思います】



【こころ皆 浪にながれて 月の糸】





最後の一枚が落ちるまで、櫻井はそれをじっと見ていた。



思っていたのは、言葉の、頼りなさについて。



あのときどんなに輝いて見えた言葉も

温かく、大野の心を救ったように見えた言葉も




今となってはただの文字で

目の前の彼の気持ちを、代弁することも叶わないのだと思うと


馬鹿馬鹿しいような気がした。




(儚い、って言うと聞こえが良いけど…)




でも




散って往くなら


言葉は 花だ




そう思うと、それはそれで綺麗な気もした。




(…良いものを見せて貰ったな)




ふと、大野を見たら


その手元には、ふたつ折りの和紙が一枚、残っているだけだった。




薄桃色。




ぎこちなく、それも、櫻井の胸に押し当てて…

しかしそれは落とさなかった。



何度もぎゅうぎゅうと押し付け、そのまま


力が尽きたように、しゃがみ込もうとするので、櫻井も同じように姿勢を低くしなければならなかった。




【秋まひる 柳の散るを

　口初むひとの 声や うつくし】




薄桃色の和紙。



散って往くなら言葉は花だ。



花びらだったら、これは桜か、と櫻井は思う。





大野の両手を、やんわりと払うと、ついに

最後の最後の一枚も、ぽとりと地面に、落ちてしまった。



櫻井は一瞬だけ、寂しそうな笑みを 誰に見せるでもなく浮かべてから


俯く大野の顎を持って、そっと顔を上げさせる。




そうして初めて、目が合った。





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