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あなたの耳が聞こえない




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口に出せば、もっと辛いと分かっていた。

そして実際、想像していたよりも もっともっと辛かった。



同情とか憐憫とか、そんなふうな言葉で済むなら、こうやって息を苦しくすることも無いのだった。




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呆気にとられたように固まる櫻井の、向こう側に、下弦の三日月が光っている。

夜らしく、ぼうっと光を放っている。


細くてすこし右上がりのそれは、こっちを向いて、馬鹿にしたように笑っている口とそっくりだった。



大野は、笑われているように思えて仕方がなかった。




自分の声など、と思う。

自分の声なんか出ないままで良かったのだ。どうせ、あってもなくても、大したことを言えないんだから。



「…らな…、…要らない…、なんも…」



引っ込めたはずの涙が、懲りずに喉を詰める。

また何も言えなくなる。



大事なときに、何も言えなくなる喉だ。それで、東京に居るときも、二宮を困らせた。

余計に謝らせて、余計な仕事を増やして、余計に、薬を飲ませた。


----『誰が居た、あん時。あの女の他に。この写真、誰が撮った?』

----『頼むよ、大野さん……言ってよ…、言わなきゃ…』

----『言わなきゃ俺、アンタの事守れないよ』


嘘を吐いた。嘘を吐かせた。自分が、何も言えなかったから。




...





おかしなことばかりだ

不平等な、ことばかり




----"あなたの"




なんで自分に声があって

優しいこの人には無いんだろう



なんで自分に聞こえる音が、この人には無いんだろう





----" あなたの ことばで "




どうして、あんなやさしい台詞に、音が無くて

俺の、くだらない嗚咽に、音があるんだよ





...




「…、…っ… …い らない…よ……」



大野は、櫻井の耳に両手で触れながら、どこかの拍子で自分のものと入れ替わりやしないかと 考えていた。


そうなったら、彼は川の音に耳を澄まして、「川の音がする」などという、風情の無い平凡な台詞にも、苦笑いで頷けるようになるのだ。



そのほうが、ずっと自然で当たり前に違いなかった。




大野は悲しかった。

寒くもなければ、痛くも怖くも無かったけれど


ほんとうに悲しかったのだ。






しかし、


とうとうしゃくりあげるだけで、本当に何も言えなくなってしまって、俯いた大野に



降ってきたのは、くすりと軽い、笑い声だった。





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きんにく(プロフ) - イチさん» なんとー!そんなに大切に読んで頂けるなんて幸せすぎます。本当にありがとうございました。これからも頑張ります♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - もふもさん» こんな未熟な作品に涙などとてももったいないですが、嬉しいです^^そう言っていただけると頑張れます!ありがとうございました。 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん、最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!心温まる最後にできていたのであればとてもとても嬉しいです♪ (2021年1月18日 23時) (レス) id: 527827598f (このIDを非表示/違反報告)
イチ(プロフ) - きんにくさん、こんばんは。最終回を読みたいのに、終わってしまうのがもったいなくて、ちょっと読んではやめを繰り返していました。毎回思いますが、きんにくさんの描く世界が美しすぎて、読んでいて幸せな気持ちになりました。ありがとうございました。 (2021年1月17日 21時) (レス) id: 9e72143338 (このIDを非表示/違反報告)
もふも - きんにくさん、完結ありがとうございます! きんにくさんのお話には毎回泣かされます(/ _ ; ) 心温まる場面が多くて、つい何度も読んでしまいます。素敵な作品ありがとうございました!これからも応援してます!!! (2021年1月17日 1時) (レス) id: f5de961c82 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2021年1月2日 0時

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