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【温かくしてくれてありがとう】



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知性的な仲居は、ずいぶん食事を並べる作業に集中しているようであったので、大野は、できるだけそうっと、その男の顔の前に


そのメモを差し出した。


男は少し驚いて、漬物の入った小鉢をわきに戻し、そのメモを受け取る。


ありがとう、の部分を、視線が何度も撫でるのを、大野は気がついて

まっすぐ伝えた言葉に、今更ながら恥ずかしくなった。



俯いたのを、覗き込まれて、目が合う。



ふ、と優しく男が微笑んだ。音のない笑み。



下唇が、ぽとりと雫のように落ちてしまわないか、大野は心配になったけれど、それは杞憂だった。


男は食事の準備を中断し、メモとペンのある机から、大野と同じサイズのメモ用紙を一枚、切り取った。



【夜は冷えますから】



さらさらと、同じペンとは思えない滑らかな動きで、文字ができていった。

声の出ない自分と同じに、男はペンを走らせてくれたのだ。


返事は、とくに紙に書いてもらう必要はないのであるが、声に出すのより時間のかかるその作業を、ともにしてもらえると

同じ温度で会話ができるような気がして、大野は妙に嬉しかった。



【お疲れのようですので ごゆっくりお休みください】



疲れているように見えるのだろうか、と思う。

それとも、ゆったりした雰囲気の城崎の人々から見て、都会で動き回っていた人間と言うのは、みな一様に、青い顔をしているように見えるのだろうか。



【お夕食をご用意させて頂きました 櫻井です】



新たに、さらさらと文字が紡がれて、ふと見ると、夕飯の支度が出来上がっていた。


朝食のような、質素な夕食であったが、大野には丁度いい量と質であった。
食の細い彼を思って、二宮が選んだのかもしれなかった。



櫻井という仲居に、ありがとうの意味を込めて軽く頭を下げると、彼はにこりと笑って

上品に、畳に手をついて頭を下げ、立ち上がり、部屋を出た。



流れるような身のこなしに、大野は唖然とした。

無駄なく隙のない動きで、その丁寧さは、100回同じことを繰り返しても、100回とも上等なものを見せるだろうと思わせた。


そういえば相葉の動きも、音なく上品なものであったような気がする。

ここで働く仲居は、そういうふうに訓練されているのだろうか…



そう思いながら



櫻井の真似をして、音を立てないように、お櫃のふたをあけると

ほかほかとした白米の湯気が、ふわりと香った。



.

癒→←湯



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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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