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小さなメモ用紙は、ふわりと舞って、柳の枯れ葉と一緒に、川に落ちてしまった。

そのまま、海の方向へどんどん流されて、見えなくなった。



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「……っけほ…」



大野は自分の胸に手を当てて、どくどくと心臓が鼓動を速めていることを確かめてから、次に、喉を包むように触った。


ひといきに声を出してしまうのは、おそろしかった。



だから、何度も、確かめるように咳をした。



そのたび、ぐるぐると喉が震えるのに、やっと、安心して



しかし何も、言うべきことを思いつかず、ふっと口から出たのは



「…あ…、…秋まひる…青 く… して…」



流れていったその歌。

口に出したら、川よりも早く、風下に流れて行った。



言葉も紙も流れてしまった。拾えない。



と、大野は混乱した頭で、それだけを考えることができた。逆に言えば、そのようなヘンテコなことしか、考えられなかった。



驚きに、喜びがまだ追いつかず、まばたきばかりが増える大野に、櫻井は、何かが溶けるような笑みを見せた。


それから、そうっと大野の手をどけて、それよりも優しく、自分の手を添える。



「……散る、柳…」



櫻井は、じっと大野の口元を見、温かな手で喉が震えるのを確かめると

再び、うすく、微笑み直した。




----どうしてこの人は、いつもこんなふうに笑えるのだろう。

----どんなふうに生きたら、こんな、世界のすべてを許すみたいな笑みが…




もう一度、強い風が吹いた。



大野の目が、はっと大きく見開く。



時間の流れを遅くさせる風があるとしたら、今日の風がそうなのであろう。



喉に絡んだ櫻井の手に、ゆっくりと自分の手を添えた。

それがひどく冷えていたのか、櫻井は心配そうな顔で覗き込み、両手で包んで温めようとする。



どうして今まで気がつかなかったのか。



「ねえ……」



呼びかけても、手元を見つめる櫻井は、顔を上げなかった。


どうして今まで、気がつかなかったんだろう。



あまりにもこの人が、言葉を纏っていたからか。そこに音は、無かったというのに。



「……耳が…」




大野は、その台詞の先を飲み込んだ。

櫻井は一向に顔を上げず、大野の手を温め続けていた。


そうしていると、自分の声が本当に出るようになったのか、どんどん自信がなくなっていった。




風が喉に当たって、冷たい。




言葉も紙も流れてしまった。



拾えない。






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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時

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