羽 ページ12
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「う〜!おつかれおつかれ〜!地獄の12連勤おつかれ〜!」
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宿の本館の最上階が、従業員の休憩室になっていた。
旅館らしく、座敷になっていて、しかし取って付けたようにアルミのロッカーが壁に貼り付いている。
座布団を枕に、ゴロンと寝そべったのは相葉である。
「明日は休みだ〜あはは」
「うるせーな」
それを一瞥して、ついでに軽く蹴りを入れた男は、この宿の厨房で働いている松本。
時刻は21時。夜勤と夕方勤務が、入れ替わる時間だった。
「お前のシフトどうなってんの、てゆうか」
「ゴールデンウィークにさあ、いっぱい休ませてもらったからねえ、それで」
「あー」
「でももう今日で終わりだよお、あーブラック企業とかっていっつもこんな感じなのかなあ、やだやだ、ココでよかった」
相葉が、着崩れた着物を、しゅるしゅると脱いでいく。
それを横目に、松本も、腰に巻いたサロンを取った。ロッカーの鍵を回して、ふと、思い出す。
「離れに芸能人さん入ってる?」
この宿の離れはひとつだけだった。露天風呂付の、すこし広い和洋室である。
一般人から、ときにはお忍びでやってくる業界人まで、さまざまに利用があった。すこし値は張った。
「あ、うん…、えっと、歌手の方が」
名前を言いよどんだのは、浴衣を着るのを手伝おうと近づいて、突飛ばされたときの、怯えた目の色を思い出したから。
胸の前で握りしめた手が震えているのに、表情はひとつも変わらず、目だけがいっそう潤んでいた。
----『ちょっと気分的に参っちゃってるみたいなんで。突拍子もないことはしないだろうけど……、チラチラでいいんで、元気にやってるか見ててもらってもいいですか』
大野が、気を休めるために城崎に来たことを、二宮は遠回しに相葉に伝えていた。
丁寧に接することが必要なお客様だと、胸に刻んでいただけに、あの大野の反応はショックではあった。
「ふーん。まあべつに良いんだけどさ、あれだね、やっぱ口に合わねえモンなら、容赦ないね、金持ちって」
「夕食?残ってたの?」
「ほとんど全部よ?…ま、べつにいいんだけどさ?タダで出してるわけじゃねえし」
「あ、たぶん松潤それ、わざとじゃ……」
べつにいいけど、と言いながら、ほとんど手のつかないまま返ってきた食事に、内心かなしく腹を立てている松本の
誤解を解くために相葉が弁解しようとしたとき
休憩室の扉が、ぎぎ、と開いた。
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きんにく(プロフ) - 律さん» 律さん!こちらにも来ていただいて本当に幸せです〜ありがとうございます(泣)ご期待に添えるようなお話が書けたらなと思います! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - はるさん» はるさんはじめまして!お越しいただき誠にありがとうございます。そんなふうに言ってもらえて幸せです♪がんばります! (2021年1月8日 11時) (レス) id: d7e5080941 (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - やっぱりきんにくさんの小説が大好きです!癒しです!続き楽しみにしてます! (2021年1月6日 19時) (レス) id: 820f2de8f4 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - きんにくさん、初めまして。素敵なお話ありがとうございます。これからも楽しみにしています。 (2021年1月6日 11時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - satominさん» satominさんありがとうございます♪毎度毎度、恐縮でございます。おおお…私が読んでる本は暗くて長くて素敵な本です(笑)その人たちみたいに書けたらなあと思いながらなかなか…な日々です(笑)嬉しいことを聞いてくださってありがとうございました♪ (2020年12月28日 23時) (レス) id: 3c003d42b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年10月19日 16時